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高齢者マル優廃止が意味するもの
  小泉内閣の断行している各種改革が、今まで聖域といわれてきた高齢者層に対しても、痛みを及ぼし始めた。中でも2002年度の税制改正で決定した、小額貯蓄非課税制度の段階的廃止がその代表例といえる。小額貯蓄非課税制度は、65歳以上の高齢者や身体障害者などを対象とした非課税制度で、一般的にマル優と呼ばれている制度である。制度の概要は民間預貯金など、公債(国債と公募地方債など)、郵便貯金などそれぞれについて元本350万円(合計1050万円)に対する利息が非課税となるものであり、多くの高齢者などに活用されている。
  今回の改正内容とその対策を簡単にまとめると以下のとおりである。

  1. 制度そのものの廃止は2005年末であるが、一部の改正はそれ以前より開始される。まず2003年1月以降、新たに預けた預貯金や購入した国債の利息は非課税とはならなくなる。よってマル優が利用できる人は、2002年度中にマル優対象商品を購入し、設定する必要がある。

  2. また、すでにマル優を利用している人の場合、預貯金などの利子は2005年末までの分が非課税となる。

  3. 今回の税制改正で適用廃止の対象となるのは65歳以上の高齢者だけであり、それ以外の対象者である障害者や一定要件を満たす母子家庭は2005年以降も、マル優制度が存続される。
  今回のマル優制度改正で高齢者の税負担が増加することは紛れもない事実である。一方で低金利下の日本においては、この制度が廃止となっても利息自体が少ないため、政府の税収面では大きな改善が見込まれるとは考えづらい。ではなぜ政府は従来の聖域といわれた「高齢者のマル優制度」廃止に踏み切ったのであろうか。その理由の一つには、日本政府が貯蓄優遇政策から投資優遇政策へと政策転換を図っていることが挙げられる。
  つまり、「高齢者には元本保証商品の貯蓄であっても一定の優遇を行う」政策の時代が終わり、これからは「年齢で優遇するのではなく、株式投資などいわゆる投資を行う者に対して一定の優遇を行う」政策の時代が到来したというといえるのではないだろうか。
  現在「高齢者」に対する株式などの投資商品の販売は、いまだに慎重論が根強い。実は政府自体が株式譲渡益課税に関する申告不要制度の導入や、利便性を向上させる制度を創設するなどのあの手この手で、高齢者層という巨大マーケットを株式などの投資に誘導しているのである。そのような政策の変化の影響で、高齢者への金融資産設計に関するアドバイスでよく見受けられる「高齢者=元本保証商品での運用」というセオリーも今後は崩れる可能性がある。いい換えれば今後、高齢者層に支持される金融資産設計のアドバイスは「すべて元本保証商品での運用」というものから、「投資信託や株式などの投資商品を積極的に組み入れた運用」というものに移り変わっていく可能性が高いということである。
  高齢者に対する今後の金融資産設計アドバイスは、このような環境の変化をしっかり捉えた上で、その時代に合った形のアドバイスを行うように心がけなければ、高齢者のニーズとかけ離れたものになってしまうかも知れない(たとえ、そのアドバイスが従来は支持されていたものであったとしても)。
  いずれにせよ政府が政策方針を転換した以上、高齢者に対する改正は今後も何らの形で行われる可能性が高いので、しっかりとその改革動向を見据えていく必要がある。
2002.01.16
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