>  今週のトピックス >  No.348
ワークシェアリングは雇用確保の切り札となるか?
雇用の場の確保が最大のテーマ
    失業率が5.5%に達するなど、雇用情勢は悪化の一途をたどっている。今春の春闘では賃金のベースアップ(ベア)の統一要求が見送られるとともに、「雇用の場の確保」が最大のテーマとなる見込みだ。景気が回復しなければ仕事の絶対量が増加しないため、雇用の場を確保するには既存の仕事を労働者同士で分け合うしかない。そこで最近にわかに脚光を浴びているのが「ワークシェアリング」という方法だ。

1人分の仕事を複数の労働者で分かち合うワークシェアリング
    ワークシェアリングとは、ひとことでいえば労働時間の短縮などにより就業者と失業者が仕事を分かち合うことだ。たとえば、1日8時間働いている人の労働時間を半分に減らせば、残りの時間でもう1人の雇用を生み出せる。1人あたりの賃金は減るが、2人分の雇用の場を確保できるため失業対策としてメリットが大きい。

  欧米ではドイツやフランスなどの数カ国がワークシェアリングを導入しており、特にオランダが有名だ。かつてオランダでは失業率が10%を超えていたが、1982年にワークシェアリングを導入したことで1999年には失業率が2%台に低下した。オランダではフルタイムとパートタイマーの賃金や待遇があまり違わないため、自主的にパートタイマーを選ぶ人が増えたことが成功の要因とされる。日本もオランダを見習ってワークシェアリングの導入を進めたいところだが、お国柄の違いもあり、なかなか実現は難しそうだ。

労使間の思惑の違いがワークシェアリングの導入を阻む
    最大の問題は、労使間でワークシェアリングに対する考え方が異なることだ。経営側の指針となる日経連は、パートや派遣など雇用形態の流動化をはかることで総人件費を削減し、雇用維持を図る方針だ。時短による雇用の確保よりも、「賃下げ」を重視する思惑が透けてみえる。

  一方、労働者側に立つ連合では、ワークシェアリングはあくまでも雇用の維持・確保が目的であり、ワークシェアリングを口実とした賃金の切り下げは許せないとしている。現在、厚生労働省が間に入って話し合いが行われているが、両者の思惑が合致しないとスムーズな導入は難しいだろう。

日本的な労働慣行の改善が課題
    さらに、日本的な労働慣行も問題だ。ワークシェアリングで1人あたりの労働時間を減らすといっても、サービス残業が当たり前の日本では、いっそうタダ働きが増えるだけではないかという見方もある。また、ワークシェアリングの導入にあたっては、オランダのように同一労働、同一賃金であることが大前提だが、日本ではフルタイムとパートタイムの格差が著しいうえ、一人ひとりの職務範囲があいまいで客観的な職務評価ができないため、時間単価を出すのが難しい。

  また、ワークシェアリングが導入されると労働者1人あたりの収入が減るため、それをどうカバーするかが問題になる。将来、労働者は複数の職につかなければ暮らせない時代が来るかもしれない。社会保険や税金面における政府の支援策が必要だ。

見切り発車でワークシェアリングの導入が進む
    いろいろな問題はあるものの、現状では他に有効な解決策が見出せないのも事実だ。すでに三洋電機や富士通などの大手企業がワークシェアリングの導入を決めており、今後も業績の厳しい企業を中心に導入を考える企業が増えるだろう。当面は、目の前の問題を1つ1つ解決しながら、労使双方にとってメリットのある形を求めて試行錯誤するしかない。
(マネーライター  岡崎  桂子)
2002.01.22
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