>  今週のトピックス >  No.357
失業率の改善には雇用のミスマッチ解消が不可欠
●完全失業率の4分の3は雇用のミスマッチによるもの
  総務省が29日に発表した昨年12月の完全失業率は、過去最悪の5.6%を記録した。完全失業者337万人のうち、倒産やリストラによる非自発的失業者は125万人にのぼり、厳しい雇用状勢を示している。年間を通じて失業率が5%を記録したのも初めてで、失業率が改善する気配はまったく見えてこない。
   失業者が増加し続けている理由は一体何だろうか。もちろん、不景気による倒産やリストラで企業の求人の絶対数が減ったことも大きな原因だ。だが、昨年11月の厚生労働省の調査結果によると、求人が減ったことによる失業率は全体の4分の1にすぎない。残りの4分の3は、求人企業と求職者の条件のズレによる「構造的・摩擦的失業率」、いわゆる雇用のミスマッチによるものだ。失業率の改善を図るには、このミスマッチを解消する手立てを考えなければならない。
●求職者の年齢層によってミスマッチの内容は異なる
  雇用のミスマッチと一言でいっても、その中身は求職者の年齢によって大きく異なる。総務省の平成13年8月労働力調査によると、15歳から44歳の求職者が仕事に就けない理由の第一位は、「希望する職種・内容の仕事がない」。これが45歳以上になると、「求人の年齢と自分の年齢とが合わない」がトップに躍り出る。若年層が自らが納得できる職場を求めて転職を繰り返す一方で、中高年層は年齢に見合った求人がなく就職できずにいるという構図が浮かび上がる。
  言い換えれば、失業率を改善するには(1)求職者を企業の需要に合うように再訓練し、(2)求人の年齢制限を撤廃すればいいことになる。
●能力的なミスマッチ解消の施策は充実してきた
  政府は、雇用のミスマッチ解消のために昨秋以降さまざまな対策を打ち出し、求職者がスムーズに再就職できるように援助を始めている。特に、世帯主である45歳以上の中高年層に対する支援の充実ぶりが目立つ。
  例えば、今月1日から施行された雇用対策臨時特例法では、中高年の再就職を促進するために、訓練給付の拡充、派遣期間の延長、中高年を雇用した企業に対する助成金などを盛り込んでいる。
  従来、訓練延長給付が受けられるのは1回限りだったが、45歳から59歳の中高年齢者に限って2回まで受けられるようになった。
  また、公的機関を利用した職業訓練は、期間が短く実用的ではないとの批判があったが、今後は民間企業や大学などと連携して実用的な職業訓練を図る方針だ。成果が出るまでに時間はかかるが、(1)の能力的なミスマッチを解消するための手立ては着実に進んでいる。
●年齢制限の撤廃と賃金体系の改革が不可欠
  だが、中高年層にとって最も深刻な問題である(2)の年齢制限については、相変わらず高い壁が立ちはだかったままだ。昨年10月に雇用対策法が改正され、事業主に求人の年齢制限の撤廃を求める法案ができたが、努力義務規定に過ぎないうえ逃げ道が多く、実効性はあまりないと見られている。成果を挙げるには、努力規定ではなく法案に強制力を持たせるべきだ。
  また、中高年の採用を妨げているもう一つの大きな原因として、企業の賃金体系が挙げられる。能力主義をとる企業が増えたとはいえ、大半の企業では終身雇用制の名残として、中高年の賃金水準は高いままだ。欧米のように、年齢ではなく同一能力、同一賃金になれば中高年が再就職しやすくなるだけでなく、ワークシェアリングのスムーズな導入につながり、ひいては失業率の改善が見込まれるだろう。現在、労使がワークシェアリングの導入を検討しているが、今後の経過を見守りたい。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.02.05
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