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自己実現の場としてのNPO(民間非営利組織)Vol.5
〜NGOを通した個人ベースの国際交流〜
  昨年9月に米国で起きた同時多発テロ事件、そしてアフガニスタンでの戦争によって、アラブ社会、イスラム社会への敵意や偏見が強まり、その緊張関係の激化を危ぐした人も少なくないことだろう。世界平和や相互理解のために何かしたいと思いながらも、あまり政治的に過激なものには抵抗感があり、また、組織的な継続活動は困難と感じている人にオススメのNGOを紹介しよう。
  「サーバス(Servas)」は、国際交流を深めることで世界平和を築いていこうという国際的なNGOである。前回紹介した国連の経済社会理事会(ECOSOC) にも早くから登録されていた。サーバスの主な活動は、会員間で無料のホームステイを提供するというものだ。現在世界100カ国以上に独立した組織があり、各国ごとのホスト会員リストを毎年発行している。
  リストには、各会員の年齢、職業、趣味、関心事、訪問あるいは居住経験のある国、話せる言語などが紹介されており、興味のあるホストに自ら手紙や電話やメールで連絡を取り、都合が合えば無料で2泊3日のホームステイができる。会員数は世界で約1万6,000人。毎年1,200人以上が認定を受け、世界各地を訪問する。ホスト訪問総回数は、年間6,500回以上といわれている。
  リストには多種多様な人々が含まれており、「どんな人かな〜」と想像するだけでも楽しくなってくる。筆者自身もニュージーランド、韓国、米国、カナダを旅行中に利用し、数多くの出会いがあった。また、サーバス会員を通じて、各国のさまざまなNPOを知ることもできた。
  会員になって一番驚いたのは、初対面であるにもかかわらず、旧知の友のように扱われたことである。朝食後、「好きなように過ごしてかまわない」と鍵を渡され、ホストファミリーたちは職場や学校へと出掛けてしまう。「そんな簡単に信用していいのか?」、とこちらが戸惑ってしまうこともしばしばあるが、犯罪の多いイメージがあるニューヨークでホストファミリーを訪れたときも、そのような家族が少なくなく、感動した記憶がある。
  互いの文化や時事問題について話すことも多いが、わたしはたまたま鍼灸指圧の心得があるため、時には実演して東洋医学を体験してもらうこともある。音楽好きの家族を訪れた場合は、一緒にピアノやギターでミニ演奏会をすることもあった。また、わたし自身ホスト会員として、時間が取れるときには、毎月10人ぐらいのトラベラーを受け入れていた。
  ホストになる場合もトラベラーになる場合も、サーバスの趣旨をよく理解しているかを面接で吟味し認定される。特にトラベラーに対しては、旅行する度に自己紹介メッセージと写真やパスポートナンバー付きの認定証を発行してもらう必要がある。また、ホストやトラベラーの予約のやり取りは、基本的に個人ベースで行われ、強制されることは一切ない。
  サーバスは第2次世界大戦後の1949年に、ヨーロッパで始まった。サーバスという名は、エスペラント語の“Servas(奉仕する)”からきているが、特定の宗教や政治イデオロギーにはまったく関係がなく、堅苦しいものではない。世界中に友人ができれば、「偏見や誤解など紛争の火種が少なくできる」というのが会の主旨だ。
  日本では1962年に誕生した。会員数は現在約400人。全国的組織なので、北海道、東北、東海・北陸、近畿、中国・四国、九州などに支部があり、地域ごとの交流会を行っているので、興味のある人は会員から体験談を聞くのもいいだろう。
  「旅行会社にお膳立てされた観光旅行では得られない地元の人と普段着の交流ができる」「海外出張の場合、宿泊の必要がなくても、地元の会員と会食するのが仕事の息抜きになり、そこで得られる生の情報がビジネスに役立つとことも多々ある」とトラベラー体験者は、その魅力を語る。またホストになる場合にも、「原則として宿泊所を提供するだけで、案内などをする必要もなく、自立したトラベラーが多いので安心だ。都合が合わなければ断ることができ、食事の準備が無理な場合は、外食で済ますようにも言える。初めて知る国からの会員と話すのは楽しい」と、10年以上活動している会員たちが大半を占めている。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.02.19
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