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自己実現の場としてのNPO(民間非営利組織)Vol.6
〜NPOを育成するインキュベーター〜
  営利、非営利を問わず、事業の立ち上げ時には困難を伴うことが多い。米国にはインキュベーター(incubator。原義は「ふ化器・保育器」)というビジネスがあり、個人やグループが新しく始めた事業が軌道に乗るまでさまざまな援助を行っている。日本でもITバブルといわれ始めた数年前から知られるようになった。ベンチャーキャピタルは、将来の見込みがあるビジネスに出資・支援し、株式上場後にキャピタルゲインで巨大な利益を得ようと考えているが、米国では、より良い社会を築くための投資として、NPOセクターでもインキュベーターの役割を持つ団体がいくつかある。
  人的、財的力量がない個人や団体に対して、インキュベーターは事務所のスペースをはじめとして、電話やインターネット設備、コピー機、ファクス、パソコンなどの設備を共同使用できるように提供し、財団などからの助成金申請の肩代わりをする。電話の応対、事務処理、会計業務などの代行から、コンサルタントなどのサービス提供を行うこともある。
  代表的なNPOインキュベーターとしては、サンフランシスコにあるタイズ財団(Tides Foundation) (http://www.tidesfoundation.org/)が挙げられる。タイズ財団は1976年に設立され、社会変革を地域で、全国で、国際的レベルで促進するために、広範囲なプロジェクトに対して、マネジメントにおける財的、人的支援を行っている。1979年よりインキュベート事業を始め、1996年にインキュベート事業はタイズセンター(Tides Center)として独立した団体になった。1999年の時点では、総資金規模は5,000万ドルとなっており、350のプロジェクトを支援し、全米40州で600人の雇用を創出している。
  タイズ財団は健康的な社会を築いていくことを目的としており、社会変革を模索する個人またはグループの社会起業家を支援するインキュベーター事業の分野として、社会的公正、コミュニティー問題、経済公共政策、国際問題、環境と天然資源の5つを設定している。
  タイズ財団は健康的な社会を築いていくことを目的としており、社会変革を模索する個人またはグループの社会起業家を支援するインキュベーター事業の分野として、社会的公正、コミュニティー問題、経済公共政策、国際問題、環境と天然資源の5つを設定している。
  このほかにも、ペンシルバニア州フィラデルフィアにあるResources For Human Development (RHD) (http://www.rhd.org/) が注目されている。社会的公正、地域社会の自律性、社会的責任を目的として、タイズ財団のような広範囲ではなく、地域における活動を主な対象にしているが、現在ペンシルバニアのほか8州で130以上のプロジェクトを支援している。1970年の設立後、すぐに社会起業家支援事業を開始し、支援を受けその後独立したプロジェクトの代表としては、Please Touch Museumがある。その名の通り手で触って楽しめる児童教育向けの博物館で、観光ガイドブックにも載るほどの地元の観光名所となっている。
  日本でも、自治体の企業家支援の一環として、営利企業のみならず、個人やNPOへの支援プロジェクトが行われるようになってきてはいるが、まだまだ十分というには程遠い。既存の助成財団のプログラムもニーズにあったものは少なく、国内NPOの発展のためにも、こうしたインキュベート事業が増えることを願うばかりだ。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.03.05
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