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退職金は従来型、前払型どちらを選ぶ?
●川崎重工業が管理職全員に前払退職金制度を導入
  4月から川崎重工業は課長職以上の管理職全員(約2,500人)を対象に、退職金の一部を分割で前払いする制度を導入する予定であることを発表した。管理職に昇進した時点で、それ以降に上積みされる加算金を毎年、個人業績に応じて夏と冬に支給していく。従来は勤続年数に応じて退職金を支給していたが、今後は退職金においても業績主義を徹底することになる。
  平成10年4月に松下電器産業が前払退職金制度を導入して以来、国内では同制度を導入する企業が相次いでいる。一般的に、前払退職金制度は新入社員や中途社員を対象とすることが多く、川崎重工業のように管理職全員に義務付けるのは珍しい。ここ数年、企業はリストラや業績主義の一環として、早期退職制度や年俸制の導入を進めてきたが、これらはいずれも40歳代以上の管理職世代がメインターゲットである。今回、前払退職金制度の対象を管理職にまで広げたことで、今後はますます管理職の実力が問われることになる。
●前払退職金制度のメリットとデメリット
  前払退職金制度は、将来支給される予定の退職金を、分割して現在の給与や賞与に上乗せする制度だ。入社数年目から前払退職金が支給されるため、目先の所得が増えることもあり若年社員を中心に人気が高い。建設機械大手のコマツ(小松製作所)では今年度から前払退職金制度を導入するが、対象者(2000年度採用者)の92%が、選択式であるにもかかわらず新制度を選択した。前払退職金制度は、企業にとっても優秀な人材が確保しやすくなることや、将来の退職金支払いの負担が減るなどメリットが多い。だが、従業員がこの制度を選択するにあたってはいくつか注意すべき点がある。
  1. 退職所得控除が受けられない
    前払退職金は通常、「給与・賞与」として支給されるので、所得税の退職所得控除が受けられない。結果として所得税・社会保険料の負担が増え、長期的にみると手取り金額が減少する。(企業によっては目減り分を上乗せしてくれるケースもある)


  2. 老後の設計が立てにくい
    従来は退職金の一部で住宅ローンを完済し、残りの退職金を老後の生活費にあてるというライフプランが可能だったが、前払退職金制度を選択した場合、老後の資金プランが立てにくい。


  3. 資金の管理が難しい
    前払退職金を支給されてから年金生活に至るまでに数十年ある場合は、老後資金としてうまく運用することが難しい。なかには運用に失敗したり、若年時に使い果たしてしまい、老後に十分な生活費を確保しておくことができないケースも出てくるだろう。また、ペイオフが開始されることなどもあり、資金運用に注意が必要になっていく。
  月別の状況報告では男女別内訳が把握されていないが、昨年6月末現在の「認定者の年齢階級別・要介護度別状況」(厚生労働省 平成13年12月)によると、「要支援」以上の認定者のうち女性が70%を占めており、高齢になるにつれその割合は圧倒的に多くなっている。介護する人も女性が72.2%と、介護問題は女性にとって特に切実なようである。
●従来型、前払型どちらを選ぶ?
  前払型と従来型のどちらを選択すべきかは一概にいえないが、もし選択の余地があるのなら、選ぶ前にじっくりと自分自身のキャリアとライフプランを考えるべきである。将来転職する可能性、老後の資金計画、会社が倒産する可能性などを加味せず、目先の金銭につられて安易に選択すると、のちのち後悔することになる。
  前払退職金を選択する場合は、毎月の給与の上乗せ分はあくまでも「退職金」であると自覚して、使い道を慎重に考えなくてはならない。一部を自己投資にまわすこともいいが、長期的な視点で貯蓄や投資を行うことが不可欠だろう。運用結果次第で老後の生活がガラリと変わる可能性がある。
  確定拠出型年金(日本版401k)と同様に、前払退職金制度の導入は管理職に対しても若年世代に対しても、「老後資金は自己責任で準備する」時代に入った事実を、改めて突き付けている。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.03.05
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