>  今週のトピックス >  No.379
企業の社会保険脱退が従業員に与える影響は?
●社会保険を脱退する企業が増えている
  ここ数年、社会保険(厚生年金保険、健康保険)に加入しない企業が増えている。社会保険に加入している事業所数は1997年度末の170万から3年間で167万に減少した。また、加入しているが財政事情が苦しく、保険料が納付できない会社も増えている。本来なら、従業員5人以上の企業は社会保険への加入が義務付けられているため「未加入」という状態はありえないはずだが、「会社が解散した」などと虚偽の届け出をして脱退を図る企業が後を絶たない。社会保険事務所も、無理に加入させて保険料を滞納されるのも困るため、黙認しているのが現状のようだ。
  企業はコストダウンのために社会保険に加入しなくてもよいパートや、アルバイトの割合を増やしてきたが、その矛先はいよいよ「正社員」の待遇面にも向かってきたようだ。
●社会保険(厚生年金保険、健康保険)を脱退した場合、納付する保険料が変わる
  勤務先が社会保険を脱退した場合、従業員にどのような影響が出るのだろう?
  サラリーマンのAさん(27歳独身・給与月額25万円)の例を見てみよう。Aさんが毎月納付する保険料は次のように変わる。
◎厚生年金保険 22,500円(給与の金額によって異なる)
国民年金   13,300円(定額)
◎健康保険   11,050円(同上)
国民健康保険 18,441円(前年度の住民税が10万円の場合。ただし、金額は市町村によって異なる)
  Aさんの場合、保険料合計額が33,550円から31,741円となり、金額的にはあまり変わらない。むしろ保険料が天引きされないため給与の手取金額が増えて、トクをした気がするかもしれない。だが実際には、次のような違いが出ることになる。
●老後の生活に影響が出る可能性がある
(1)
保険料がアップする
勤務先で社会保険に加入している場合、保険料は会社と従業員が半分ずつ負担することになる。だが、個人で加入する場合は、従業員が保険料全額を負担しなければならない。例えば国民健康保険の最高保険料は年間56万円(地域によって異なり、例えば東京23区部の場合53万円)のため、所得によっては保険料が大幅にアップする。また、国民年金や国民健康保険は、家族の数が増えれば、その分保険料が上がる仕組みになっている。Aさんのように独身ならともかく、妻子を養っているサラリーマンにとっては、保険料は相当な負担になる。
(2)
将来の年金の支給額が減る
厚生年金保険は在職中の所得によって支給額が変わるため、厚生年金保険を中途脱退した場合、老後の年支給額が少なくなる。
(3)
医療機関での自己負担額が2割(平成14年3月14日現在)から3割にアップする。
(4)
自分自身で国民健康保険や国民年金の加入手続きをして保険料を納付しなければならないため、国民健康保険の加入や納付を忘れてしまうことがある。また、国民健康保険に加入せずに病気になった場合、医療機関の自己負担額が10割になる。
●今後も社会保険から脱退する企業が増える
  勤務先から社会保険の脱退を告げられても給与カットの場合と違い、影響が目に見えにくいため、そのまま受け入れてしまう従業員が少なくないようだ。だが、社会保険の脱退は従業員の今後の人生に大きな影響を与えることになる。企業にとって社会保険の加入は義務であるため、勤務先からの通告をただ受け入れるのではなく、組合などを通じて粘り強く交渉するようにしたい。
  これから高齢化社会の進展とともに、社会保険の保険料も上昇することが予想される。あなたの会社も、社会保険からの脱退を考え始めるようにならないとも限らない。決して人ごとではないことを肝に命じたい。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.03.19
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