>  今週のトピックス >  No.384
厳しさを増す年金財政
  厚生年金基金とは、主に大企業などが設立する企業福利厚生制度の代表的制度の一つである。この仕組みは厚生年金保険の一部を国に変わって保険料を運用する代行部分と、その上乗せ加算部分の「2階建て構造」になっている。しかし、最近になってその厚生年金基金制度を見直す動きが広がっている。国内最大規模の企業年金を持つ日立製作所が、この厚生年金基金の代行部分について国へ返上する方針を固めたのも、その動きの象徴といえるだろう。
  現在、多くの企業でこの代行部分の返上が検討されている。今後この動きがさらに拡大した場合、少子高齢化により悪化している国の年金財政をさらに悪化させる要因の一つとなることは間違いないであろう。企業がこの代行部分を返上している理由としては、現在の株価下落と低金利の影響により多大な逆ざやが発生している結果、企業にとって大きな負担となっているからである。
  企業にとって代行部分の大きな魅力は、予定利率を上回る運用成果を上げることができた場合、その上回った分を厚生年金基金資産に組み入れることができるという点である。株価が好調な時代には、予定利率が5.5%と高くても企業はそのメリットを享受することが十分可能であった。しかし昨今の市況情勢から、予定利率5.5%を上回ることは非常に厳しく、その結果、代行部分が企業に数十億円規模の逆ざやを発生させている。
  さらに3月9日に日本経済新聞社が集計した、2002年3月期の上場企業全産業(1643社、金融・証券・保険を除く)の予想連結最終利益は、前期比7割減となっている。これは、会計制度変更などによるもので単純比較は難しいとしても、世界同時不況で経常利益が約6割減となった1978年3月期以来の落ち込みである。
  このことからも、この逆ざやを発生させている代行部分は、厚生年金基金制度を持つ企業にとって悩みのタネとなっていることは明らかである。その状況のなか、企業にとって朗報となったのが、一定要件を満たせば、厚生年金基金から確定拠出年金への移行が可能となったことである。皮肉にもこの改正は、厚生年金基金の資産減少に一役買うことになってしまった。今後、厚生年金基金財政はさらに厳しさを増していく可能性が高いといえる。
  一方で、国民皆年金の根幹である国民年金においても、財政悪化の根源といえる未納率が過去最悪を更新している。社会保険庁が3月8日に発表した「2000年度社会保険事業概況」によると、未納率は27%を占めており、これに低所得のため保険料免除となっている申請免除者などを加えると、未納者は30%を超えている。今後さらなるリストラなどにより、厚生年金のサラリーマンが国民年金に移行した場合、未納者が増加することも予想され、国民年金の財政悪化は容易に予想される。
  国民年金・厚生年金ともに年金財政を取り巻く環境は一層厳しさを増しており、このような財政悪化要因が解消されないならば、公的年金制度自体を根本的に見直す改正が必要となるのではないだろうか。その際には、自助努力年金として、変額年金や変動利率年金、投資信託などがスポットを浴びることになるであろう。
2002.03.26
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