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相続における限定承認の落とし穴
  長引く不況の影響で、被相続人が膨大な債務を抱えたまま相続開始に至るケースが増えている。被相続人の財産を正確に把握できないため、保証債務などの隠れ債務や、訴訟に伴う不確定債務の有効な対処法として、「限定承認」や「相続放棄」などが挙げられる。近年、「限定承認」が急増しているようだが、「とりあえず」などという感覚で「限定承認」を行うと、税務上大きなリスクを伴うことになる。
  「限定承認」は相続財産の範囲内で債務も引き継ぐということから、一見有利にみえるが、その選択には慎重な対応が必要である。相続放棄は当該相続人一人でも可能だが、限定承認は共同相続人全員で行う必要があるため、相続の方法を決定する熟慮期間(知った日から3カ月以内)の開始時期も全員が相続を知った日となる。しかし、いちばん大きな問題点として、相続人が限定承認を行った場合、被相続人が相続開始時点の価額で全資産を譲渡したものとして「みなし譲渡課税」が行われることである。(所得税法第59条1項―1)
限定承認<民法922条>:相続人が相続によって得た財産の範囲内で被相続人の債務を引き継ぐことをいう(相続財産の限度内で、相続債務の弁済清算)。
ただし、相続の開始を知った日から3カ月以内に、共同相続人全員で家庭裁判所に申述する必要がある。<民法第923条>
【ケース1】相続財産≦債務の場合
  単純承認の場合、相続財産と債務をすべて引き継ぐため、債務はすべて相続人の債務となり、債務が相続財産を上回ることになる。一方、限定承認の場合、相続財産イコール債務(被相続人の譲渡所得税も含む)のため、相続財産はゼロとなり、相続税も課せられない。このケース1の場合だと限定承認は有効である。ただし、相続債務は、相続人が弁済する必要がある。
【ケース2】相続財産>債務の場合(例:相続財産10億円、債務2億円)
  単純承認の場合、相続人は2億円を弁済することになる。そのため2億円の土地を相続人が売却した場合、その土地の処分に係る譲渡所得が発生し、相続人の所得税として負担することになる。一方、限定承認の場合、限定承認を行った時点の価額で資産を譲渡したものとして譲渡所得税が課せられる。その譲渡所得税は相続上の債務(被相続人の負担すべき所得税)となる。しかし、この場合の問題点として、債務の2億円ではなく相続財産すべての10億円を譲渡したとみなさるため、10億円の財産に対して譲渡所得税が課せられ、その譲渡所得税額が相続債務となるので相続人が相続する財産は譲渡所得税分、減少してしまう。
  従って限定承認を行う場合は、被相続人の債務額を見極めず、「とりあえず」という感覚ではなく、厳密に財産と債務を把握したうえで行うことが重要である。
【限定承認の問題点】
  • 共同相続人全員で行う必要があるが、全員の意思統一が難しい。
  • 全財産が譲渡財産とされて「みなし譲渡所得課税」の対象となる。
  • 被相続人の所得税の準確定申告(相続の開始を知った日から4月カ以内)をする必要があるが、譲渡所得の申告漏れが発生しやすい。
  • 相続債権者の公平の原則があるため、特定の債権者に優先弁済して、ほかの債権者への弁済ができなくなった場合、その債務が相続財産を超えていても相続人が負担しなければならない。
【相続の承認方法における譲渡所得税の比較】(相続における債務の弁済方法)
承認方法 譲渡所得税の負担者 譲渡財産(譲渡所得税の対象) 相続税対象額
単純承認 相続人 実際に処分した財産 遺産−債務
限定承認 被相続人 全相続財産 遺産−債務
(譲渡所得税を含む)
2002.04.02
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