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申告納税拡大でサラリーマンの納税意識が高まる?
●会社員の自主的な申告納税を促す
  「あなたはこの1年間で所得税をいくら払いましたか?」
  この問い掛けに、答えられるサラリーマンが何人いるだろうか。自営業者と違い、サラリーマンが税金を意識する機会は少ない。所得税は毎月の給与から天引き(源泉徴収)され、年末になれば会社側で過不足を精算(年末調整)してくれるため、税金を意識するのは、住宅ローンや医療費控除の申告をするときぐらいだろう。これでは、大多数がサラリーマンである日本人の納税意識が高まらないのも当然といえる。
  しかし、これからは徐々にその意識が変わっていくことが予想される。現在、政府は税制改革の一環として、会社員の自主的な申告納税を促す制度の導入を検討しているからである。新制度は、現在の源泉徴収制度は据え置いたまま、申告納税をする人が増えることを目指している。具体的には、サラリーマンの必要経費の範囲を拡大し、申告することにより税金が安くなる人が増えることになる。
●サラリーマンの必要経費の範囲が広がる
  サラリーマンの必要経費にあたるのが、給与収入の約3割程度に相当する「給与所得控除」である。新制度では、給与所得控除のほかに一定条件を満たすものを経費として認め、給与収入から控除できるようにする。例えば、Aさんの給与収入が500万円とした場合、給与所得控除150万円をマイナスし、さらに一定の経費を控除できるようになる。課税所得額が減るため、結果的に税金の軽減や還付につながることになる。
  あまり知られてはいないが、現在でも「特定支出控除」といって同様の制度が存在している。サラリーマンが特定の支出をした合計額が給与所得控除を超えた場合、超過分を給与所得控除後の金額から差し引けるというものだ。だが、実際にこの制度を利用したのは2000年度中に7人と、ほとんど利用されていない状況である。必要経費が年収の3割を超えるサラリーマンはほとんどいないからだ。今回、政府は特定支出の内容に交際費を追加するなどして範囲を拡大し、制度を使いやすくすることを狙っている。
<特定支出とは>
1.通勤費
2.転勤に伴う引越し費用
3.研修費(職務に直接必要な技術や知識に限る)
4.資格の取得費(職務に直接必要な技術や知識に限る)
5.単身赴任者の帰宅旅費
●還付申告で納税者意識の高まりを狙う
  しかし、今回の計画は矛盾もはらんでいる。政府は必要経費の範囲を広げる一方で、給与所得控除の額を圧縮する方針である。その場合、結果的に税負担額が上がる可能性があり、政府は負担増を避けるために所得税の税率を下げることも検討中だ。また、毎月の源泉徴収税額を増やし、サラリーマンに還付申告の意欲を起こさせることも検討している。なぜそこまで申告納税にこだわるのかと思うが、政府はサラリーマンの納税者意識を高めることで、税制改革の支持を得ようという思惑もあるようだ。
  2002年末に株式の譲渡益の源泉分離課税が廃止されるなど、納税をめぐっては「源泉徴収」から「申告納税」への方向性で進んでいる。新制度が導入されたとしてどれだけの人が利用するかは疑問だが、今後、日本のサラリーマンもアメリカのように、自分で年間の所得と税額を計算して納税するスタイルが一般的になるのかもしれない。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.04.02
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