>  今週のトピックス >  No.394
表示問題にみる鶏肉の種類
  昨年のBSE(狂牛病)の影響から鶏肉の需要が増え一時は価格も高騰したが、表示偽装問題が大きく波及したため、最近の価格は下落している。今回の表示偽装事件では、ブロイラー、地鶏、銘柄鶏、無投薬鶏、オーガニックチキン(有機鶏肉)と、いろいろな鶏肉の種類が取り上げられたが、一体どういう違いがあるのか見てみよう。
  まず、ブロイラー。これは、生物学的な品種の名前ではなく、一般に効率のよい品種や飼育方法で大量生産される「肉用若鶏」の総称である。「ブロイル(broil:焼く、あぶる)」専用の若鶏を意味し、白色コーニッシュ種、プリマスロック種、ロードアイランドレッド種などをもとに品種改良した成長が早く肉づきのよい鶏ことである。合理化された大規模なケージ飼い(一部、平飼いもある)で飼育され、雌、雄の区別なく生産される。その大部分が平均して約8週齢の若鶏で出荷されている。国内の鶏肉生産の9割以上を占め、また、日本の鶏肉流通の約30%がアメリカ、タイ、中国、ブラジルから輸入されている。
  次に、地鶏。これは、ルーツがはっきりしている国産鶏を指し、法律で定められている。特定JAS規格では、「明治時代までに国内で成立し、または導入され定着した鶏の品種である在来種を父親または母親として使用すること」と定義されている。具体的な品種としては、名古屋コーチン、比内鶏、軍鶏(シャモ)、 会津地鶏などがある。 生産方法の基準は、次の通りである。
T.素びな  在来種由来の血液百分率が50%以上であること
U.飼育期間 80日間以上
V.飼育方式 28日齢から平飼いで飼育したもの
W.飼育密度 28日齢から1m2当たり10羽以下
  そして、銘柄鶏。これは、業者が独自に命名したブランドである。飼料を独自に工夫したり、飼育期間を55日以上にしたりするなどの環境で飼育したもので、ブロイラーに対して何らかの差別化を図ったものだ。地鶏の基準に満たない在来種由来の血液百分率が50%未満の鶏や海外品種なども含まれる。具体的な商品例としては、赤鶏、伊達鶏、津軽鶏、蔵王鶏などがある。鶏は性器成熟直後が歯ごたえと柔らかさのバランスが良く、一番おいしいと言われ、その日数がちょうど80日ごろのため、地鶏や銘柄鶏の多くは、その時期が出荷のめどとなっている。
  一方、消費者の健康と安全志向から注目されているのが、無投薬鶏、オーガニックチキンである。一般に、養鶏業者の多くは飼育効率を高めるため、限られた面積にできるだけ多くの鶏を飼育しようとする。そのため、ストレスから鶏は病気になりやすく、1羽が病気になるとアッという間に広がり、大量死となってしまう。それを予防するために抗生物質や抗菌剤が日常的に必要となる。薬事法では、飼育期間約60日のうち出荷前7日間だけ薬剤を添加しない飼料を与えればよいことになっている(これを休薬期間という)。それに対し、無投薬鶏は、その名の通り、飼育期間中薬を与えないで育てられた鶏をいう。広いスペースで飼育され、施設の衛生管理や飼料の改良により、病気になりにくい健康な鶏が生産されている。ひなの徹底した観察や糞便や血清などの検査を実施することで病気も早期発見し、ほかに伝染させないシステムになっている。
  オーガニックチキンは、やはり完全無投薬飼育で、肉骨紛なども与えず、オーガニック飼料だけで飼育した鶏である。日の光があたる広々とした開放平飼いの養鶏場で、自由に運動させながら育てられる。通常より長く90日間飼育している。肉のきめが細かく軟らかで、脂肪が少なく、あっさりして肉質の臭いがないという。
  日本では鶏肉が一般家庭の食卓に登場するようになったのは、昭和30年代後半からである。ブロイラーひなが飼育され始め、それまで高価だった鶏肉が庶民の手に入りやすい価格となり、一気に躍進した。その後、経済の発展と豊かな食生活に伴って、地鶏やブランド鶏などが注目され、さらに自然を意識した栄養価の高い有機鶏肉が、見直されるようになってきている。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.04.09
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