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新宿・歌舞伎町に防犯カメラ50台、問われる安全とプライバシー
  日本有数の歓楽街である東京都新宿区歌舞伎町では、警視庁による防犯カメラシステムが平成14年2月27日から稼働している。飲食店や風俗店が密集している区役所裏から、新宿コマ劇場周辺の約600メートル四方の区域のビルの屋上や壁面、街路灯などに固定式18台、レンズが360度回転する釣り鐘型31台、ズーム式高感度カメラ1台の合計50台の防犯カメラが設置された。中でも新宿コマ劇場前に設置されたズーム式高感度カメラは、80メートル先までクリアに撮影できるという。カメラの設置費用は約2億円、年間維持費用は約1億2000万円かかるそうだ。
  撮影された映像は新宿署と警視庁本部に送られる。新宿署内のモニター室で警察官が24時間4交代で監視し、遠隔操作でカメラをコントロールすることもできる。警視庁本部では送られてきた映像をすべて録画し、原則として1週間保存した後に消去される。歌舞伎町は、1平方キロ当たりの年間の刑法犯認知件数が、都内平均の約40倍に当たる約5,400件にのぼる犯罪多発地域である。地元商店街や新宿区の要望に基づく措置だが、一つの地域にこれほどのカメラを設置するのは全国でも初めての試みで、今後ほかの地域にも設置することが検討されているという。その一方で、プライバシーの侵害を懸念する声も上がっており、その経過が注目されている。
  さて、設置後1カ月が経ったが、効果はあったのだろうか?
  撮影された映像で逮捕につながったケースが2件あったという。一つは、暴力団組員がタクシーに接触したと言って運転手を恐喝しようとしたが、実際はひかれるどころか、自分で車を蹴っていたのがカメラに映っていた。もう一つのケースでは、歩道上に設置した露店で、ルイ・ヴィトンの商標に似せたかばんやベルト、携帯電話用ストラップなどを販売目的で所持していた疑いで、20代の外国人学生が商標法違反容疑で現行犯逮捕された。また、警視庁生活安全部の話によると、ひったくり、車上狙いなど路上犯罪が減少し、歌舞伎町地区の110番受理件数も減っているという。犯罪者に対し、どこからでも見られているという心理的効果を与えている結果かもしれない。
  しかし、闇の犯罪防止になるのだろうかという疑問の声が少なくない。違法薬物の売買などは、街頭ではなく建物の中で行われた場合は関係ない。路上の犯罪に対しては効果が上がるが、凶悪犯罪はかえって巧妙化し、地下組織に潜るだろうと懸念される。また、「記録されたデータがきちんと管理されているか」「個人情報保護の方策が明示されていない」「どのような形で、どれだけの期間保存されるのかが第3者によってチェックされる方法がない」などをプライバシー侵害の問題点として指摘する弁護士もいる。
  過去にはプライバシーの侵害を理由に、最高裁が1998年11月、防犯カメラの撤去を命じたケースがある。大阪府警は大阪市西成区のあいりん地区に、暴動監視や薬物取引の防止を目的に15台のカメラを設置していたが、あいりん地区の労働組合の委員長が、労働組合事務所ビル前に設置されている防犯カメラの撤去を訴えた。労働者の動きだけを常時監視する目的で設置したとして最高裁は判決で、「防犯目的といえども、どこでも設置していいわけではない」として下記のような基準を設けた。
・犯罪の発生が十分予測できる
・証拠としての緊急必要性がある
・公正な方法で撮影
  英国では、1993年の幼児誘拐殺人事件の犯人を捕えた映像がテレビのニュース番組で何度も放映されたことが世論に大きく影響し、以後防犯カメラを国中に設置することになった。現在は約100万台が設置されており、街頭はもちろん、パブやトイレの中にまでおよぶ。今後2年間で200万台に増やす計画で、いくつかの防犯カメラには、人相認識技術を組み込み、通行人の人相を自動的にスキャンしてデジタル処理した犯罪者の顔データと照合させている。英国政府は、最高の防犯システムの一つであり、国民に広く受け入れられていると主張しているが、犯罪学者や人権団体からは、「監視社会に疑問・不安を感じる国民は多い」と異議を唱える声が上がっている。
   歌舞伎町での防犯カメラ設置場所には日本語や中国語などで「防犯カメラ作動中」と書かれた標識を置くと、警察は当初発表していたが、実際に標識が置かれているのは約半数程度であった。 E-Magazine(http://www.emaga.com/)が最近インターネット上で行ったアンケート結果(投票数716)では、歌舞伎町の防犯カメラについては、約80%の人が賛成している。しかし、その意見内容を見てみると、歌舞伎町という犯罪多発地域に限定しての賛成であり、プライバシーの侵害や警察の悪用・不祥事を懸念し、監視地域を広げることについては否定的な意見が少なくない。本来、防犯対策は犯罪の源を減らすような環境づくりなど、多様な取り組みが模索されるべきで、市民は今後の動向を注視していく必要がある。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.04.23
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