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メディア規制3法案 テレビキャスター7人が反対声明
  4月18日、国会で審議中の「個人情報保護法案」と「人権擁護法案」「青少年有害社会環境対策基本法案」の通称「3点セット法案」に対して、テレビキャスター7人が共同で反対声明を発表した。東京・永田町の参院議員会館で記者会見したのは、真山勇一、筑紫哲也、安藤優子、鳥越俊太郎、田原総一朗、蟹瀬誠一、斉藤一也の7氏。影響力の大きいキャスターが一堂に会してアピールを行うのは異例のことだ。
  個人情報の保護、人権の擁護、「有害」な情報からの青少年の保護に関する法律になぜ反対するのかというと、この3つの法案は、その響きの良い名称とは違い、言論や報道の自由を不当に制限し、政治や行政を監視するメディアの役割が果たせなくしてしまう危険性をはらんでいるからだ。
  「個人情報保護法案」は、本来、国民の個人情報の流出をチェックするための法案だった。行政からの情報(警察などの捜査情報や犯罪歴情報など)の流出や、民間による名簿の悪用などを対象として検討されるはずだった。しかしいつの間にか、言論の自由を脅かす内容へとすり替わってしまっている。
  例えば、不正疑惑のある政治家を取材しようとした場合、審議中の法案では、あらかじめ取材対象者に、どのような情報をどのように使うかを説明しなくてはならない。もし、対象者が取材データの開示を要求したら、応じなければならない。ジャーナリストは、情報提供者を守るために情報源を秘匿するのが困難になってくる。また、個人情報取り扱い事業者に対しては、本人の同意なく第三者に渡してはいけないという規定もある。最近の外務省の機密費問題、政治家の秘書疑惑、雪印食品の不正表示事件などが表面化したのは、内部告発によるものが多い。「内部告発は報道の取材の上で大きな力を持つ情報ソース。この法案が成立すると、内部告発は激減し、やりにくくなる」と安藤優子氏は懸念を表明した。
  「人権擁護法案」は、警察や入国管理局での暴行、刑務所での虐待などの人権侵害をチェックする独立機関をつくるよう国連から勧告されたものである。しかし、審議中の法案では、入管を管轄する法務省をチェックするのは法務省外局に設ける人権委員会だ。その事務局には、法務省の職員が入局しているため、法務省が法務省をチェックするという独立機関とは言えないシステムになっている。これでは、本来想定されていた被害者の救済が進むとは思えない。
  さらに問題なのは、報道被害による人権侵害を救済するために、メディアを規制する点である。「犯罪行為を行った者」への取材は禁じてはいないが、その家族に関して執拗に取材を続けた場合には、人権侵害とみなされる。法案では、電話やファクスを使った取材も対象になっている。また、条文は「ストーカー規正法」とほぼ同様で、メディアの取材活動とストーカーを同一視している。「報道による人権侵害は、マスコミ側にも反省すべき点は多いが、メディアによる自主規制や第三者機関にゆだねるべきだ」とキャスターたちは訴えた。
  もう一つの「青少年有害社会環境対策基本法案」では、各業界が「青少年有害社会環境対策協会の設立または加入に努めなければならない」とし、その協会の監督官庁を置くと定めている。何が有害かを行政が一方的に決めてしまうことになり、思想・表現の統制や検閲にもつながる恐れがある。
  この3つの法案は、規制の対象がテレビやラジオだけでなく、新聞、雑誌などの活字の分野にも及んでいる。インターネットも当然含まれることになるだろう。「きつねにニワトリ小屋の番をさせるようなもの。マスメディアだけの都合での反対ではない、情報提供者が一番不利になる。ものが言いにくい世の中になり、最後には市民が被害を被ることになる」と筑紫哲也氏は、3法案を批判した。 田原総一朗氏は、「昔は自由がなく、今はあると言われているが、明治憲法でも、言論の自由、結社の自由は認められていたが、個別法で禁止されてしまった」と、歴史を振り返り主張した。
  言論や表現の自由が規制されるような社会になれば、その反動によるテロや犯罪はかえって増加し、それを規制するためにさらに強権的な法制度がつくられるという悪循環に落ち込んでしまうだろう。現在の憲法がうたう国民の権利や自由の条文が骨抜きにされてしまうようなことになるのを決して許してはいけない。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.04.23
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