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世界初のCO2排出量取引市場、英国でスタート
  4月2日にイギリス、ロンドンの金融街シティーで、金や石油と同じように、二酸化炭素(CO2)の排出量を売買する取引が開始された。イギリス政府が地球温暖化防止のための京都議定書に沿って創設した制度で、多数の企業が参加する本格的な市場としては、世界初である。温室効果ガスの削減を達成する手段として、市場原理を導入した点が注目される。昨年4月より始まった気候変動税(CCL:Climate Change Levy)で、企業や公共団体に対し、石炭・ガス・LPG・電力などの公共部門のエネルギー消費に課税される措置に続く温暖化防止策だ。似たようなケースとして、アメリカでは大気浄化法に基づき、1995年からSO2(二酸化硫黄)の排出権がシカゴで市場取引されている。
  この制度では、参加企業が政府との間で自主的に削減目標を取り決め、協定を結ぶ。目標を達成できた企業には、協定時の目標値レベルに応じて、政府から奨励金が支払われ、減税措置が受けられる。目標に達しない企業は、この取引市場を通じて目標以上に削減できた企業から不足分を購入することで達成したとみなされる。企業を自発的に取引制度に参加させるため、英国政府は奨励金を5年間で総額2億1,500万ポンド(約390億円)用意したという。
  グリーン・コンシューマー(環境問題に配慮する消費者)を意識した取り組みでも知られる英国のスーパーマーケットのテスコは、全国で700店舗あるチェーン店を合わせて、5年間でCO2を7万4,000トン削減する目標を立てた。一番電気を使うオーブンを保温効果が高いものに変更し、CO2を15%削減。冷蔵庫も電力消費を30%削減するものに変更した。目標達成の暁には、テスコは5年間で約7億5,000万円の奨励金が受け取れる見込みだ。環境対策責任者は、排出量取引制度を次のように評価する。「CO2を削減すれば、電気代の節約ができるうえに、減税措置や奨励金が期待できる。目標を超えた分は他社に売ることもできる。企業にとって魅力的な制度である」と。まさに、一石二鳥ならぬ一石三鳥、一石四鳥となる。
  市場への参加は、自らがCO2の排出者であるか否かは関係なく、排出量取引機関に登録すれば可能という。仲介会社を想定したものであるが、環境保護活動を行うNGO(非政府組織)が排出量を買うことにより、地球に排出されるCO2量を減らすことができる。また、排出量取引価格を上げることで、企業へのインセンティブに拍車をかけることも考えられる。
  温室効果ガス排出量は世界で年間約65億トン、国際的な市場規模は年間20兆円規模の巨大市場に成長すると推定されている。イギリス政府はこの分野で世界をリードする意欲を見せている。さらに、京都議定書に離脱しているアメリカを議定書に呼び戻したいという思惑もあるようだ。排出量取引によって、新たなビジネス・チャンスが広がれば、アメリカも参加せざるを得ない状況になるだろうというわけだ。
  EU(欧州連合)は、2005年に域内で試験的な制度をスタートさせる。地球規模では2008年以降に制度の誕生が予想されているが、温暖化問題は年々深刻になっていくばかりだ。京都議定書が動き出すにつれ規制は厳しくなり、排出量市場も大きくなるだろう。市場原理を持ち込んだ対策が、果たして地球温暖化防止に有効か、今後の影響が注目される。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.04.30
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