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白熱する捕鯨論争。IWC会議が開幕
  4月25日から第54回国際捕鯨委員会(IWC)年次会議が、かつての捕鯨基地であった山口県下関市で開幕した。科学委員会南氷洋ミンククジラ・アセスメント作業部会をはじめとして、クジラの資源管理についての協議に入った。5月20〜24日の総会までの1カ月間、商業捕鯨の再開を目指す日本と、永続的な捕鯨禁止海域(サンクチュアリ)の拡大を求める反捕鯨国との間で激論が展開されている。その背景を見てみよう。
  これまで捕鯨賛否については、感情的な主張が際立ち合理性を欠く論争が続いてきた。その際たるものが「鯨は知的でかわいい」vs「伝統食文化」である。前者は主に欧米で反捕鯨キャンペーンとして「人間に近い知能を持つ動物を、殺したり食べたりするのは残酷だ」と感情に訴えた戦略は、西洋文化圏では大成功した。しかし、異文化圏の人間に対して強い偏見や差別を生むことになり、攻撃対象となった日本人としては「クジラが食べたいわけではないが、西洋文化を一方的に押し付けるのはおかしい」と “反・反捕鯨”という強い反発となっている。これらを反省材料として、現在は海洋生態系の問題、希少な野生生物の保護、持続的な生物資源維持など、理性的な立場で捕鯨に反対する路線へと転換した環境保護団体も少なくない。
  「捕鯨やクジラを食べるのは日本の伝統食文化」という主張にも無理がある。確かに古くから鯨が水揚げされる地域周辺では、鯨食は身近な伝統文化といえるだろう。しかし、伝統的な捕鯨は全国レベルではなく、沿岸付近によるもので、南極海にまで行くようになったのは100年程前の近代になってのことだ。戦後、学校給食などで鯨肉は全国的に普及はしたが、日常的な国民文化というには及ばない。わずか2、3カ国が、自国から遠く離れた公海上の南極海や北大西洋、北西太平洋で、大量捕獲を行うようになったため、商業的には鯨を必要としない国でも気になるのは当然のことだろう。
  「沿岸捕鯨だけを認めて、公海上では一切禁止すればいいのでは?」という意見もあるだろうが、1997年のIWC総会の際、アイルランド提案として争点となったことがある。妥当性のある案に思われたが、実際には捕鯨推進側からも反捕鯨側からも反対されることとなった。日本は現在、調査捕鯨として公海上でミンククジラ、マッコウクジラ、ニタリクジラなどを毎年約400頭捕獲し、約2,000トンの鯨肉(卸価格で40億円規模)を市場に流通している。末端では100億円を超える市場と推定され、実質的には商業捕鯨に近く、止めるわけにはいかないという立場である。調査捕鯨の主体者は水産庁で、(財)日本鯨類研究所に委託し、捕獲調査は共同船舶株式会社によって行われている。
  反捕鯨側の理由は、たとえ沿岸に限定しても、いったん商業捕鯨を認めれば、乱獲が加速するのではという懸念があるからだ。監視体制や罰則が不十分な状況では、日本という市場がある限り、そこに進出しようと日本への輸出を目的とした捕獲が外国でも増え、結局地球全体のクジラが減少することにつながりかねないからだ。
  現在、日本での沿岸捕鯨は、8〜9社の企業によってツチクジラやイシイルカなど、IWCの商業捕鯨の禁止対象になっていない小型の鯨類について行われている。ちなみに、4メートル以下の鯨類を一般にイルカと呼ぶ。国内市場に流通している鯨肉は、沿岸でのイルカ肉か調査捕鯨からのミンククジラがメインとなっている。
  IWC会議の今後の動向が注目される。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.05.07
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