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派遣労働者向けの健康保険組合が誕生
●ますます立場が不安定になる派遣労働者
  規制緩和や企業の需要拡大を受けて、人材派遣業界が急成長している。厚生労働省によると、2001年12月時点で一般人材派遣会社は6,570社と前年より約3割増えた。それにともない、派遣で働こうとする人の数も138万人と前年比で約3割増加している。
  その一方で派遣労働者にとってさまざまな問題も増えている。デフレと不況の影響からか時給は下落傾向にあり、契約期間も短期化している。政府は派遣労働の長期化を推進しているが、実際には3カ月から6カ月、中には1カ月単位で契約更新を繰り返すケースも多く、派遣労働者の立場は不安定になるばかりだ。
●健康保険に加入しない無保険者が増加
  さらに、派遣労働者にとって頭が痛いのが社会保険(健康保険・厚生年金)の問題だ。社会保険は雇用期間が2カ月以上の労働者に対し加入が義務付けられている。派遣期間中は派遣会社のもとで加入するのが一般的だが、いったん契約が切れれば社会保険から脱退し、自分で国民健康保険や国民年金の加入手続きをしなければならない。その後、また派遣業務を再開すると社会保険に再加入することになるため、面倒を嫌って手続きをしない人が少なくない。特に、健康保険に加入していない「無保険者」の存在は問題だ。派遣期間が短期化する中で、現行制度に対する派遣労働者の不満が高まっていた。
●派遣労働者のための健康保険組合が誕生
  そんな問題を解決するために、5月1日、業界独自の健康保険組合である「人材派遣健康保険組合」が誕生した。今までの健康保険と異なり、派遣契約が切れた後も引き続き同じ派遣会社で仕事をする確実な見込みがある場合は、その間の空白期間について最長1カ月間保険を継続できる。もし再契約の見込みがない場合でも、最初の1カ月は安い保険料で健康保険に加入し、2カ月目以降は通常の任意継続制度としてトータルで最長2年間加入を継続できる。保険料率は政府管掌の健康保険(料率8.5%)よりも低い8.0%と、低収入の人でも加入しやすいように配慮されている。新しい健康保険組合には、組合側の予想をはるかに上回る100社以上の派遣会社が参加し、被保険者は約11万人に達するなど関心の高さがうかがえる。
●景気が回復しても派遣労働者は増え続ける
  派遣労働者にとって、安心して働き続けるためには社会保険への加入が必要不可欠だ。今後も厚生年金と国民年金の切り替え手続きについては従来どおりだが、派遣労働者が契約の空白期間中も健康保険に継続して加入できるようになった意義は大きい。今後、景気が回復しても企業が人件費を削減する流れは変わらず、派遣労働者はますます増えるのではないかと予想される。「正社員」という雇用形態が特殊になるかもしれない時代に向かって、今後も派遣労働者の待遇の整備は大きな課題だ。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.05.21
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