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IWC総会開幕 捕鯨論争の行方は
  第54回国際捕鯨委員会(IWC)年次会議が、先月25日から下関市で行われているが、5月20日には総会がスタートし24日まで続く。商業捕鯨の再開を目指す日本の主張が認められるかが注目される。
捕鯨推進の根拠として、水産庁が特に主張するのは次の2点。
(1) 過度な保護で小型のミンククジラは増加している。
(2) クジラが食べる魚の量は世界の漁業生産高1億トンの3〜5倍。漁業への脅威。間引かないと魚が食べ尽くされてしまう。
これについて検証してみよう。
(1)について
   大型鯨が減少した一方で、捕鯨の対象である時期が短かった小型のミンククジラは確かに増加している。しかし「ミンククジラは100年前の10倍に増加」という推進側の説には疑問が多い。現在、頭数の確定ですら困難であるのに、当時は捕鯨の対象として関心も低かった小型鯨を100年前に誰がどのように調査したのだろうか。IWCは1992年にそれまでの調査結果を基にして、南氷洋に約76万頭、北大西洋に約15万頭、北西太平洋に約2万5,000頭生息すると算出した。ところが、統計処理の方法が不十分ではないかといった議論がIWC科学委員会でも続いており、科学者によっては「100万頭いる」という人もいれば、計算のし直しによって「40万頭くらいになるかもしれない」という人もおり、世界の科学者が合意した頭数はまだない。現在、算出法の見直し作業が進められ、2003年のIWC総会(ドイツ開催)までに発表されることになっている。
  「クジラはゴキブリみたいにいっぱいいる」。昨年7月にオーストラリアのテレビとラジオが、水産庁資源管理部の小松正之参事官のインタビューを放送し、このコメントが有名になった。基本的知識として、哺乳類であるミンククジラは性成熟するのに6〜7年で1年に1度しか出産しない。魚や昆虫のように大量に繁殖するものではないのだ。大型鯨が減少したからその代わりに小型鯨を捕獲というのでは、いつかはミンククジラも絶滅の危機に追いやられることになりかねない。
(2)の「鯨食害論」について
   捕鯨肯定派の研究者からも異論が出ている。東大海洋研究所の松田裕之助教授は、自身のWebサイト(http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2002/020320b.html)で次のように述べている。「日本が1990年代にカタクチイワシとサンマをそれぞれ40万トンと30万トンしか獲らなかったのは、需要がなかったためである。漁獲量より多く捕食しているからといって、鯨と競合して漁獲量が減っているとはいえない。本当に競合して餌となる魚が枯渇しているなら、今ミンククジラは増えないはずである。サンマやカタクチイワシは1990年代には海に余っていた」。
  数十年前の捕鯨が盛んに行われていた時代には、現在より多くのクジラがいたはずだが、その当時「クジラが多すぎて魚が捕れない」という漁業被害は聞かれなかった。またミンククジラの中で、いわしやサバやサンマなどの小魚を食べる雑食性は北西太平洋で生息するもので、系統群が違う他のミンククジラの大半はオキアミを主食とする。水産庁の根拠は恣意的に操作された数字によるもので、科学的とはいいがたい。
  持続可能な捕鯨が、果たしてビジネスの中でできるのか。商業捕鯨再開の条件となる改訂管理制度(RMS)では監視制度が争点となる。仮に商業捕鯨が認められたとしても、実際に遠洋での捕鯨を再開できる水産会社は大手ではなく、ノウハウもすでになくっている。また、かなりの頭数を確保しなければ採算が取れない。現在の調査捕鯨による市場でも、毎年約10億円の税金を投入して成り立っている。
  もう一つ大きな問題は鯨肉の汚染だ。クジラ肉の国際取り引きは、絶滅の恐れのある動植物の国際取り引きに関する条約(ワシントン条約)で規制されているが、「留保」という手段をとり水産庁はノルウェーからミンククジラ肉の輸入を計画している。ところが当初予定していた脂身からは、高濃度のPCB(ポリ塩化ビフェニール)やダイオキシンが検出された。日本のPCBの暫定基準値の平均値で7.6倍。最高で40倍という危険なものだった。そのため赤身のみの輸入となるが、消費者団体からも安全確認のチェックが求められている。日本沿岸のイルカやクジラからも暫定基準値を超えた高濃度の水銀やダイオキシンが検出され、販売を見合わせたケースも報告されている。安全性の面も含め、今後の論議は科学的な調査結果のもとで検証されることが望ましい。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.05.21
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