>  今週のトピックス >  No.422
年俸制でも時間外給与の支払が必要
●会社に割増賃金の未払分120万円を支払命令
  5月17日、「年俸制を理由に時間外労働分の割増賃金を支払わないのは違法」として、大阪府の男性が会社側に未払賃金の支払いなどを訴えていた裁判で、大阪地裁は会社側に計120万円の支払いを命じた。会社側は「残業代は年俸の中に含まれている」と主張したが、判決は「年俸制の採用で、ただちに時間外割増賃金を支払わなくてよいということにならない」として会社側の主張を退けた。今回の判決は、企業がコストダウン目的で急速に年俸制に移行しつつある中で、弱い立場に置かれがちな従業員の権利保障を明確にするという意味で画期的な判決といえそうだ。
●そもそも年俸制には残業代が含まれているのか?
  今回の判決に疑問を抱かれる人もいるのではないだろうか。「年俸制って1年分の給料の額があらかじめ決められているんでしょ。時間外手当なんてつかないんじゃないの」と、これはよくある誤解の1つだ。管理職はともかく、一般の従業員は労働基準法で時間外労働に対する割増賃金の支払いが義務付けられており、年俸制だからといってただちに時間外手当を支払わなくてもよいということではない。年俸制でも、月給制と同じように毎月一定日に給料が支払われるし、時間外労働時間についても毎月、割増賃金として精算する必要があるのだ。
●基本給と割増分をハッキリ区別しないと労基法違反
  ただし、年俸制でもあらかじめ一定分の時間外の割増賃金を決めておいて、最初から年俸にプラスする方法もある。この方法だと、実際の残業時間が予想を超えていた場合のみ、会社側が超えた部分の割増賃金を支払うことになる。この方法を取る場合は、通常の労働時間に対応する賃金と、割増賃金に相当する賃金とが区別できるようになっていなければならない。今回の判決では、会社側がこの区別を明確にしていなかったため労働基準法違反と判断された。「使用者が基本給と時間外割増賃金を一体化して支払っていても、割増分が確認できない支払方法は同法に違反する」というのが判決理由だ。
●今後も知識不足によるトラブルが増えそう
  ここ数年、年俸制を導入する企業が急増している。(財)社会経済生産性本部の調べでは、年俸制の導入企業は全体の34.8%にのぼり、前回調査に比べて9.6ポイント上昇した。年俸制の適用範囲は、部長クラスが83.9%、課長クラスが67.8%、係長や主任が11.0%、一般従業員が7.6%と、上級管理職ほど導入割合が高い。
  年俸制はそもそも成果主義とリンクしているため、仕事に対する裁量の余地が大きい上級管理職向きの制度といえる。だが最近は、企業がコストダウン目的で一般従業員にまで年俸制を導入するケースが増えてきた。パートから取締役まで全員、年俸制に移行した会社まで現れたほどだ。だが、管理職と違って一般従業員の場合は労働基準法の縛りがきつく、完全な「年俸制」にはいたらないケースが多い。これから年俸制を導入する企業がますます増えれば、今回のようなトラブルが多発する可能性がある。
  今後、もしあなたの給与が年俸制になったとしたら、残業代がちゃんとついているかどうか毎月の給与明細をしっかりチェックすることをお勧めする。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.05.28
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