>  今週のトピックス >  No.425
時代と共に変わる労災認定基準
●過労死の労災認定件数が過去最高に
  山口県下関市で開かれていた国際捕鯨委員会(IWC)総会が5月24日閉会した。日本が求めた「沿岸でのミンククジラの捕獲枠」は否決。また、米国とロシア共同提案の「先住民生存捕鯨捕獲枠の修正案」も可決されなかった。IWCの歴史上、生存捕鯨が否定されたのは初めてのこと。これは、商業捕鯨が認められなかった日本側の報復措置の結果だ。
  過労死認定が増えた背景には、不況やリストラによる人員削減で労働者一人あたりの負担が増加したことが考えられるが、同省が2001年12月、労災の認定基準に「疲労の蓄積」を採り入れるなど基準を緩和したことの影響が大きいとみられる。以前は労災認定にあたって発症前の1週間の勤務状況しか考慮されなかったが、発症前の半年間まで期間が拡大されたことで認定対象が広がったのだ。
●新基準により不認定判決がくつがえされるケースが増えた
  今回の発表では同時に、うつ病、心的外傷後ストレス傷害(PTSD)、精神分裂病などの精神病による労災認定も前年度比2倍の70件に増加し、過去最高となった。うち自殺は5割増の31件と急増した。脳・心臓疾患は50代が中心なのに対し、精神疾患の認定者は20、30代が6割を占めるのが特徴だ。精神病の労災認定が増えた背景には、99年に当時の労働省が、仕事によるストレスや過労で心を病んだり自殺したりした場合の労災認定について指針を発表したことが影響しているようだ。
  相次ぐ労災認定の基準緩和により、以前の基準では不認定とされたケースでも決定が取り消され過労死と認定されるケースが出てきた。最近では入社後約50日で心疾患で死亡した21歳の男性について、新労災認定基準の「長期間の過重業務」が適用され、不認定が取り消されて過労死の認定を受けた。このほかにも今年に入って出版社社員やトラック運転手などで同様のケースが報告されている。
●労災の内容が変われば認定基準も変わる
  このように過労死の認定者が年々増え続けているのに対し、意外にも労災そのものの発生件数は減少している。昭和48年に136万6,241人だった総被災者数は、平成11年には55万5,452人と6割も減った。昭和47年に労働安全衛生法が制定されて企業の安全意識が高まったこともあるが、高度成長期が終わり建設業、製造業の従事者が減ったことも理由の1つだ。特に昨今は公共事業などの工事が減ったことで建設業の被災者が減少している。
  昔は、労災といえば建設現場やメーカーの工場でのけがや死亡といった外部的な要因が多かったが、いまや労働者の主流はブルーカラーからホワイトカラーに移り、労災の内容も脳・心臓・精神など目に見えない疾患が増えている。外傷と違ってどこまでを労災として認定するかの判定が難しいため、今後は国と被災者の認識の違いで訴訟になる例が増える可能性がある。特に近年、不況の影響で自殺者が急増していることから、自殺における労災認定が問題となりそうだ。今後、労働基準監督署がどのような判断を下すのか注目したい。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.06.04
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