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特別養護老人ホームに対する介護報酬が減額?
  介護保険制度がスタートしてすでに2年が経過した。同制度の報酬枠に居宅介護支援(ケアプラン作成などの在宅介護支援)が独立して設けられたように、もともとこの制度には在宅介護を推進するという狙いがあった。
  だが、国保中央会が施行後1年目で発表した在宅・施設の介護給付費をみると、その比率は1:2と施設偏重が明らかになっている。さらに介護保険対象施設である特別養護老人ホームの入所待機者は、制度施行から1年で1・5倍に急増。危機感を持った厚生労働省は「特別養護老人ホームの入所基準は、申し込み順ではなく一人暮らしといった必要度に応じること」という方針を打ち出した。
  核家族化によって家族の介護負担が増える中、要介護者を24時間預かってくれる施設へ需要が集中することはある程度予測されていた。加えて、たび重なる診療報酬の改定によって高齢者の長期入院が難しくなり、「生活の場」としての受け皿が「病院から施設へ」と移っていることも、施設偏重を生み出している大きな要因といえる。
  施設サービスに対する介護保険からの給付額がこのまま伸び続ければ、介護保険財政は当然苦しくなる。日経新聞が2002年3月に実施した調査によれば、2000年度から2001年度にかけて介護保険財政が赤字に転落したという自治体がわずかながら増え始めている。
  現在、厚生労働省は来年度に予定される介護報酬体系の見直し作業を進めている。一部報道によれば、居宅介護支援をはじめとする在宅サービスの報酬額を引き上げる一方で、特別養護老人ホームに関しては減額の方向で調整が進められているという。見方によっては、特別養護老人ホームが財政悪化の責任を負わされているようだ。
  問題なのは、減額された分のしわ寄せがどこに行くかということだ。収益の改善といえばリストラ、人件費が削減されることが考えられる。ちなみに介護職員の給与については、介護福祉士の資格取得者で平均月給が約21万円(介護労働安定センター調べ)。国家資格取得者の給与としてはかなり低い数字だ。このうえ介護報酬が減額されれば、優秀な人材確保は難しくなり、介護の質をどのように保持するかが大きな問題となってくるだろう。
  厚生労働省としては、「4人部屋中心から個室・ユニット型への整備」を押し進め、特別養護老人ホームにおける介護の質の向上を図ろうとしている。実はこの個室・ユニット型の場合、従来の4人部屋とは異なり、「居住環境が良くなる」ことを名目として家賃分の費用を利用者が負担するという仕組みになっている(2003年度以降)。
  介護保険財政が苦しくなっても、保険料を上げるという議論にはだれも踏み込みたがらない。個室・ユニットのようなプレミアを付けることで、利用者個人の負担を重くするという手法が徐々に増えていくかもしれない。
参考
「介護労働実態調査報告」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0107/h0731-5.html
「介護保険事業状況報告」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jokyo00/kaigo1.html
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2002.06.25
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