>  今週のトピックス >  No.438
少子高齢化で縮小する「老人の特権」
●高齢社会白書に見る多様な高齢者像
  政府は6月14日、高齢者(65歳以上)の生活状況などをまとめた「高齢社会白書」を閣議決定した。それによると2001年10月1日現在の高齢者人口は前年比83万人増の2,287万人。総人口に占める高齢者の割合(高齢化率)は18.0%に達した。今後、第1次ベビーブーム世代が高齢期を迎える2015年には、65歳以上人口は3,300万人、高齢化率は26.0%に達すると予測される。国民の4人に1人が高齢者という「超高齢化社会」はすぐそこまで迫っている。
  今回の白書から読み取れるのは、多様な高齢者像だ。従来、高齢者といえば経済的弱者であり擁護すべき存在だったが、実際は所得や貯蓄金額では現役世代と遜色なく(一人当りの所得平均額は316万円)、持ち家率は現役世代よりも高い。健康面でも4人に3人は大きな問題を抱えておらず、2割が現役で働いている。ボランティア活動にも積極的であるなど、自立した高齢者像が浮かび上がる。
●高齢者も財力に応じた負担が求められる
  このように近年、高齢者の実情が明らかになるにつれて、政府の対応にも変化が生まれている。従来のように、医療や年金について画一的な優遇策を行うのではなく、高齢者の財力によって相応の負担を求めるという動きだ。たとえば70歳以上の高齢者については、来年度から老人医療保険の自己負担額の上限が廃止され1割負担になることが決まっているが、一定以上の高所得者は2割負担となる。
  また高齢者マル優の廃止、公的年金等控除の縮小、年金課税の強化など高齢者の「既得権益」がいずれも見直し対象となっている。今まで凍結されていた公的年金のマイナススライド(デフレにあわせて年金支給額を引き下げること)も実施が検討されている。
  かつて、高齢者は政治家にとって大きな票田であり、高齢者の不利益になるような政策は許されない雰囲気があった。だが、いまや少子・高齢化の急速な進展により医療・年金の財政破たんが目前に迫っており、もはや高齢者というだけで特別扱いをする余裕はない。政府の政策転換には、本格的な高齢社会が来る前に何とかしなくてはという焦りが感じられる。
●優先される少子化対策
  政府は高齢者への態度を厳しくする一方で、若い世代への支援には積極的な姿勢をみせている。2004年度の年金制度改革では、乏しい年金財政から育児・教育のための資金を出すことを検討中だ。お金を使うばかりの高齢者よりも、将来の医療・年金財政の担い手を育てるための少子化対策を重視したいというのが、どうやら本音のようだ。
  ただ今回の白書では、リッチな高齢者がいる一方で最低限の生活さえ難しい高齢者の存在も浮き彫りになった。特に女性の高齢者は17%が所得がなく、経済的に厳しい状況に置かれている。「自立した高齢者」という新しいイメージにとらわれすぎると、本当に助けを必要とする弱者の存在が見えなくなる恐れがある。政府には、高齢者に応分の負担を求めるだけでなく、経済的弱者の保護という従来の姿勢も忘れないようにしてもらいたい。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.06.25
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