>  今週のトピックス >  No.442
公的年金の受給額を50歳以上に開示へ
●国民年金は3割、厚生年金は2割が保険料を未納または未加入
  公的年金の空洞化が進んでいる。20歳以上の学生や自営業者が加入する国民年金は強制加入にもかかわらず、全体の3割にあたる約360万人が保険料を払っていない。同様に、企業単位で加入する厚生年金についても本来の対象事業所の2割弱が加入していない。厚生年金は保険料の半額を企業が負担するため、コスト増を嫌った企業がわざと倒産や休業を偽装し、加入義務を逃れる例も後をたたないようだ。
   公的年金の未納者が増える背景には、「どうせ将来、年金なんてたいしてもらえないんだから」という国民のあきらめムードがある。いまのままだと、将来、超高齢社会が到来すれば年金財政が破たんすることは明らかだ。高い保険料を払っても年金が期待できないのなら、民間の個人年金に加入したほうがマシだ、と思いたくなる気持は理解できる。また、公的年金の計算方法は複雑なため、将来自分がいくら年金をもらえるのか直前まで分からないのも、年金の加入意欲をそぐ要因の1つだ。
●厚労省が50歳以上に年金予想額を開示
  厚生労働省は最近、公的年金の空洞化を防ぐために2つの対策を打ち出した。1つは、全国の社会保険事務所で老後の年金見込み額を試算してもらえるサービスの対象者を、現行の58歳以上から50歳以上に引き下げること。2つめは、加入者全員に58歳の誕生日時点で過去の保険料納付実績を郵便で通知するサービスを始めることだ。将来的には、一定年齢以上になればインターネットで予想年金額を試算できるようにしたり、保険料納付実績を点数(ポイント)で示し、獲得ポイントから将来の年金受給額を予測できるようにすることも検討している。
●早めに年金受給額が分かれば、老後の生活設計がしやすくなる
  これらが実施されれば、年金加入者は早めに将来の受給額が予測できるようになり、老後の生活設計がしやすくなる。思ったよりも受給額が少なそうだと思えば民間の個人年金に加入したり貯蓄を増やすなどの対策もとれる。また、公的年金は原則として最低25年間保険料を支払い続けないと受給できないが、これまでは、いざ年金を受給する年齢になってから年金の受給資格がないことに気付く人も多かった。早めに気付けば、そんな悲劇も避けられる。将来いくらもらえるのか具体的な数字が予測できるようになれば、保険料を払い続ける意欲も増すだろう。
●未納者をなくすために改善すべき課題は多い
  厚生労働省は今回の案も含めて、年金の加入率を上げようといろいろ工夫をこらしている。だが、これまでのように目先の事情にあわせて小刻みに受給額をダウンしたり、受給開始年齢を引き上げたりといった小手先だけの方策を繰り返すだけでは、将来の年金破たんは避けられないし、保険料の未納者が減ることはないだろう。若年層が高齢者層を養うという図式が超高齢化により不可能になるのなら、いまのうちに公的年金の設計を根本的に変える必要がある。また、保険料の支払意欲を上げるためには、公的年金に加入するメリットや未加入によるデメリットについても、もっと宣伝すべきだろう。わたしたちも、「どうせ年金なんてもらえないんだから」という無責任な考え方が将来の自分の首を締める可能性があることを、いま一度、肝に命じておきたい。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.07.02
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