> 今週のトピックス > No.444 |
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東京女子医大女児死亡事件 | ||||||||||||||||||||
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〜「事故隠し」の体質を生む一つの要因〜 | ||||||||||||||||||||
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![]() ある漫画が医療の世界に衝撃を与えている。佐藤秀峰作『ブラックジャックによろしく』(講談社)。主人公である若き研修医の目を通し、大学病院の体質ひいては現代日本医療の闇をセキララに描いた問題作だ。インフォームド・コンセント*1などあってなきがごとし、手術に対する不安を訴える患者に対して「嫌なら出ていけ」とどう喝する主治医。物語自体はフィクションであるが、監修に医療関係者が名を連ね、医療系大学の講師が「よくここまで書いてくれた」と推薦文を寄せているのをみれば、描かれている内容が現実を鋭くえぐっているのは確かだ。
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だが、事実は小説よりも奇なり。先日ついに逮捕者を出した東京女子医大病院の医療過誤事件は、現場における事故隠しの詳細が明らかになるにつれ、だれしも背筋に寒いものを感じざるをえない。
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心臓手術中の人工心肺装置の操作ミス、患者の死亡、そしてミスを隠ぺいするための看護記録の改ざん。それが高度医療を提供する特定機能病院*2で発生したことが、事態をより深刻にしている。特定の権威を付与された組織が実にお粗末な「犯罪」に手を染め、それゆえに社会不安を一気に引き起こすという構図は、HACCP*3の認定を受けていた雪印乳業の一連の事件を思い起こさせる
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厚生労働省は2001年に医政局において「医療安全推進室」*4を設け、2001年を「医療安全推進年」と位置付けた。同時に12回にわたり「医療安全対策検討会議」を実施し、患者の安全を守るための医療関係者による共同行動(ペイシャント・セーフティ・アクション)を呼び掛けている(皮肉なことに、この医療安全対策検討会議の委員に東京女子医大の名誉教授の名もみえる)。
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ちなみに、東京女子医大病院の事故が発生したのは2001年3月であり、行政が医療事故防止に力を注いでいる最中、重大な事故、しかも事故隠しという犯罪行為が行われていたことになる。
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2002年5月、検討会議の結果を受け医療安全総合推進対策というマニュアルがまとめられ、HP上でも公開されている。サイト上では、医療ミスにかかわる事例をアクシデントとインシデントという言葉で分類している。前者は医療事故に相当するもので、後者は医療ミスが患者に影響を及ぼすに至らなかったケース(現場では「ヒヤリ・ハット」*5などと呼ばれている)。
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問題なのは、両者の定義が「患者に影響を及ぼしたか否か」という結果論で区切られていることだ。周知の通り人間の健康状態については、プロでも因果関係を特定できない事例であふれている。ましてや素人である患者にはなかなか判断はできない。結果論で事故の有無を区切ってしまうことが、病院側をフリーハンドにし、事故隠しの体質につながってしまうのではないか。今回の事件をみていると、特にそういう思いが強くなる。
![]() (医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
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2002.07.09 |
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