>  今週のトピックス >  No.450
助成金の不正受給に有効な対策はあるか?
●助成金の不正受給をめぐって一部上場企業の前社長が逮捕
  6月末、生涯能力開発給付金の不正受給をめぐって佐世保重工業の前社長が逮捕された。生涯能力開発給付金は、従業員の専門知識の習得や向上などを目的に、職業訓練を実施した事業主に対して厚生労働省が賃金や運営資金を助成する制度である。同社が社員を教育訓練したように装って不正受給した金額は、1999年度が1億5,100万円(201人分)、2000年度は2億2,600万円(311人分)に及ぶという。同社はほかにも、出向の事実がないのに約4,500万円の「中高年労働移動支援特別助成金」を受け取ったとして、長崎県から詐欺罪で告発されている。一部上場企業が会社ぐるみで助成金の不正受給にかかわっていたことに、関係者は大きな衝撃を受けている。
●助成金の不正受給が増えている
  同社を告訴した長崎県が調査したところ、2000年に生涯能力開発給付金を受給した182社のうち、同社を含む5社の不正受給が判明した。また会計検査院の調査では、中小企業の新規事業を支援する「中小企業雇用創出人材確保助成金」については1999、2000年度で約2億円の不正受給があり、1998年度分を合わせると不正受給金額は3年間で3億円以上にのぼる。昨年11月には、指定暴力団系組幹部が助成金約1,700万円をだまし取ったとして詐欺の疑いで逮捕され、同2月には助成金630万円を詐取したとして経営コンサルタント会社が逮捕された。なぜこれほど助成金の不正受給が頻発しているのだろうか?
  ひとつには、助成金の申請手続きが比較的簡単なことにある。助成金の種類によっても差はあるが、厚生労働省の助成金は中小企業の労働者を保護するためのものが多く、受給要件を満たせば書類申請だけで助成金が支給されるケースがほとんどだ。電話による抜き打ちチェックがあるとはいえ、現場で口裏をあわせれば対処するのは難しくない。その結果、一般企業だけでなく暴力団などの闇の勢力が資金調達のために助成金を不正受給する例が後を絶たない。
  事業主側の意識にも問題がある。厚生労働省の助成金の財源となっているのは、もともと事業主が払った雇用保険料であるため、「モトをとらなきゃソン」という意識があることは否定できない。そのため多少審査基準に合わなくても書類上帳じりをあわせて強引に申請してしまうことになる。
●日本的な企業体質の改善が必要
  助成金の不正受給を防ぐための方法がいろいろと検討されているが、不正受給を警戒するあまりチェック機能を強化すれば実際の支給までに時間がかかり、本来の助成制度の趣旨に反することになる。また、いくらチェックをしても佐世保重工のように会社ぐるみで口裏あわせをされれば見抜くのは不可能に近い。
  同社の不正が内部ではなく外部の業者からの告発で発覚したことにも問題の根深さを感じる。助成金の支給前に県が同社の従業員約180人を面接して訓練内容の確認をしたにもかかわらず、不正を発見できなかった。従業員は心の中では「こんなことをしても大丈夫なのか」と疑念を抱きつつ、だれも表立って疑問を口にすることはなかった。制度自体の改善とともに、企業や従業員の意識を変えていかなければ問題の再発を防ぐことは難しいだろう。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.07.16
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