>  今週のトピックス >  No.453
中国進出ブームの曲り角
  ある新聞の経済面で、「中国において日本企業誘致のための工業団地を販売」という記事を目にした。主に上海などの大都市周辺に日本の大手商社が工業団地を分譲し、日本企業の進出を促そうというものだ。
  従来は企業の中国進出といえば、大企業が生産拠点を移すというのが主流だった。だが現在では、中堅以下の企業までもが果敢に中国進出を図るケースが目立っている。ノウハウの蓄積が乏しい中堅以下の企業にとって、ネットワークを組みやすい工業団地は、事業チャンスを大きく広げるだけでなく、大都市に近いことから巨大市場としての魅力もあり、生産から流通、そして消費まで、経済活動のすべてを中国へ移行する引き金となる可能性を持つのである。
  こうした中国進出ブームの陰でクローズアップされていない問題がある。中国が日本などの先進国に劣らぬスピードで少子高齢化を迎えつつあるという現実だ。
  中国全体の出生率は95年当時で2.1人となっており、日本の1.39人に比べれば安泰とみえなくもないが、これが上海などの大都市圏になるととたんに1人以下となる。上海市の65歳以上の人口比率(いわゆる高齢化率)は、1996年末で12.5%、1990年の人口調査で9.4%だったのをみると、世界一といわれる日本の高齢化スピードと大差はない。1979年に始まった「一人っ子政策」の影響(少ない若者が多くの高齢者の年金などを負担する)が出るのはむしろこれからで、「事態は日本より深刻」という声もある。
  高齢化率が上昇すれば、必然的に介護や医療を必要とする高齢者の数も上昇する。問題なのは、中国の場合「敬老思想」が根強いため、ひとつ間違えると「親の介護は子どもがすべき」という圧力がかかりやすいことだ。日本においても同様であるように、大家族が当たり前の時代であればともかく、少子化・核家族化が進行する現代において、家族介護は社会全体を疲弊させ、活力を奪うことになりかねない。労働力とその生産時間の多くを介護負担に振り分けねばならない事態になれば、中国がアジア経済の中心地という地位を保つことも難しくなるだろう。
  昨今の工業団地設立は、日本の経済活動のすべてを中国に依存せざるをえない時代の象徴ともいえる。ならば介護や医療など社会保障的な部分についても、人材やノウハウ、資金などを同時に投下していくことを考える必要がでてくるだろう。2001年あたりから一部の介護事業者では、中国の研修生受け入れを積極的に行っている。もちろん、第一の目的は国内における介護現場の人手不足を解消しようとするものだが、研修生の側としては日本の介護技術を中国に輸入しようとする意図も強い。
  中国進出ブームは、高度成長期に培われたハード面の技術に支えられてきた。これからは福祉や文化など、ソフト面をいかにリンクさせるかが中国進出のカギとなりそうだ。
参考

「海外現地法人の動向」
http://www.meti.go.jp/statistics/data/h2c3b40j.html

「世界各国の人口」
http://www.stat.go.jp/data/sekai/0201.htm#2
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2002.07.23
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