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住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)
〜セキュリティーのずさんさ早くも露呈〜
  どこからでも行政手続きができる住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)が、2002年8月5日から稼働する予定となっている。これは住民基本台帳に記載されている国民全員に11ケタの番号を割り当て、約3300ある都道府県や市町村を専用回線で結び、コンピューターで一元管理するシステムだ。今のところ4情報(氏名・住所・性別・生年月日)に限られているが、やがて納税や介護保険、医療保険、そして病歴、職歴から交通違反や犯罪歴、果ては遺伝子情報さえも統一番号の下にデータ化されるような「国民総背番号制」になりかねない。
  個人データの漏えいや不正使用などを防ぐセキュリティー対策は万全なのだろうか。不安や疑問の声は有識者や野党だけでなく与党自民党からも上がってきているが、スタート目前の先週、懸念をいっそう増大するような事柄が報告された。
  住基ネットの全国的な管理・運用を担当する機関として「地方自治情報センター」が設置されているが、そのセンターと関連する全国の地方自治体やシステム受注企業に対し、連絡用に作成したサイトのパスワード管理が非常に甘く、外部者にも容易に閲覧できる状態になっていることが判明。また、全自治体の職員に同一のIDとパスワードを発行していたという。しかも、そのIDとパスワードは、いずれも組織名などから容易に推測できる語句を利用したものだった。さらに、パスワードの更新作業も行われていなかった。IDとパスワードの管理は、どんな入門書にも書かれているネットワーク・セキュリティの基本中の基本だ。
  民間企業によるものでも、個人で作るサークル的サイトでも、会員専用ページに入るには、各会員のIDとパスワードを個別に発行し随時変更していくのが一般的だ。そのような初歩的なこともできない「地方自治情報センター」に、安全管理を任せて大丈夫なのだろうか。また、パスワードの更新作業もできないような職員が住基ネットに携わるとしたら恐ろしいことだ。ネット上でクラッキング(暗号破り)をされることだけでなく、各自治体のPC端末やその周辺に置いたメモから、IDとパスワードが簡単に覗かれるようなことがないような基本的な体制は確立されているのだろうか。
  問題のサイトでは、ネットワーク整備概要、セキュリティー対策、ソフトの修正方法、自治体とセンター間で交わされた質疑応答などの情報が提供され、地方議会に公開されていない内容も含まれていた。総務省市町村課によると同センターは、一般には公開しない方がいい情報を問題のサイトからは削除し、秘密保持の必要のない情報のみの提供を原則とし、ID・パスワードの再設定は行わないとしている。では今後、秘密保持の必要のある情報はどのように処理していくのだろうか。
  「地方自治情報センター」のずさんな管理が発覚したのと同じ頃、個人情報の保護態勢がきちんとできていないことを理由に、福島県矢祭町や東京・国分寺市が「住基ネット」不参加を表明した。同じ理由で、他にも延期や凍結を要望する自治体は少なくない。
  そもそも住基ネットは、個人情報保護法の制定を前提とすると政府は国会でも答弁していた。しかし現在、国会で提出された個人情報保護法案は公務員に罰則規定がないという、「民」に厳しく「官」に甘い内容だ。また、メディアまで規制しようという本来の目的とは全く逆に、言論の自由を侵しかねないものだ。さらに、防衛庁による情報公開請求者リスト作成問題が発覚し、他の行政機関でもやってるのではという疑念も深まった。
  行政のプライバシー保護意識の低さが明瞭となる事件をみていると、見送りとなった個人情報保護法案が「官」に甘いのは、管理能力のなさを自覚した「官」の自衛的意思の現れだったのではとさえ思える。
  さらなる疑問は費用対効果だ。住基ネットは構築費が約400億円。運用に年間200億円かかるという。実際には、その2〜3倍かかるのではという見方もある。そこまで大金をかけるメリットは何だろうか。ネットワーク整備によって、行政のどれだけの人員削減やコスト削減が進むという見通しも見積もりもない。住民がどれだけ便利になるかという点も「全国どこの市区町村でも、自分の住民票の写しがとれる」以外は希薄で、手数料や税金が安くなるという説明もない。これが「行革」といえるのだろうか。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.07.30
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