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医療制度改革関連法案が成立
〜あまり触れられない「もう一つの負担」〜
  小泉改革の目玉のひとつである医療制度改革が本格的にスタートする。7月26日、健保法改正案をはじめとする医療制度改革関連法案が参議院本会議で可決・成立した。これにより、2003年4月からサラリーマンの医療費自己負担が一律3割へと引き上げられ、保険料負担も増すことになる。
  なかでも70歳以上の高齢者に対しては、2002年10月から定額負担制が廃止されて完全1割負担に、高所得者層の自己負担は2割となる。自己負担限度額も、外来で3,000〜5,000円(後者は大病院で受診した場合)だったものが8,000〜40,200円(後者は高所得者層)と、最高で13倍近くにも跳ね上がる。
「全国保険医団体連合会」HPより
  だが、高齢者に大きな影響を与えるのはそれだけではない。マスコミではあまり触れられないが、もうひとつの大きな改正が待ち受けている。老人医療費に採用されていた「月額上限制」が廃止される点だ。
  従来、自己負担の上限をこえた医療費については2つの支払い方法があった。ひとつは、支払いの際に1カ月の上限額が決められている「月額上限制」。もうひとつは、いったん自己負担分を全額支払った後で、上限を超えた分の払い戻しを受ける「高額療養費制」である。
  現行では、70歳以上の高齢者について「月額上限制」が主にとられていたのだが、今回の制度改革によって「高額療養費制」へと移行することになる。
  そんな中、償還払いに不慣れな高齢者にとって、高額療養費制は手間がかかって負担感が増すという声がある。特に問題となるのは、毎月のように高額な医療費を支払わなければならないケースである。
  例えば、呼吸器疾患などによって在宅酸素療法を取り入れる患者は、高齢者ほどその比率が高い。携帯用ボンベや検査費用まで含めると、診療報酬額は月々12万以上になるという人もいる。その1割となると12,000円(新制度の一般外来上限額)、低所得者層は上限額の8,000円がかかることになる。
  だが、高額療養費制(償還制)になれば、低所得者層も窓口ではいったん12,000円を支払わなければならない。つまり、毎月のように4,000円分の償還払い手続きをくり返す必要が出てくるわけだ。
  周知の通り、在宅酸素療法を取り入れている患者は、日常の細かい作業にも相当なエネルギーを必要とする(健康な人の1.5倍といわれる)。仮に一人暮らしで自ら手続きを行わなければならない場合、複雑な手続きそのものが日常生活を脅かす可能性もある。
  一連の医療制度改革は、入院生活から在宅療養生活への転換をうながすという狙いもあったはずだ。だが、現状を見る限り、むしろ在宅療養生活者に大きな危機をもたらす恐れの方が強い。2002年10月以降、老人医療の現場がどうなっていくのか。ミクロレベルでの詳細な調査が求められる。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2002.08.06
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