>  今週のトピックス >  No.464
新紙幣の発行による経済効果
●2004年に新紙幣3種類を発行
  8月2日、政府は現行の紙幣を2年後の2004年に刷新することを発表した。1万円札の福沢諭吉はそのままに、5,000円札は樋口一葉、1,000円札は野口英世と図柄を一新する。20年ぶりの紙幣刷新であることと、図柄に初めて女性が起用されるということで大きな話題を呼んでいる。政府は今回の刷新はあくまでも偽造防止が目的であり、経済効果はあまり期待していないというが、内心は不況で停滞しているムードを変えるきっかけになればと期待しているようだ。
  新紙幣が発行されると、自販機メーカーやATM機器メーカーをはじめ、印刷・紙などの関連業界が潤い、経済効果が期待されるといわれる。株式市場ではさっそく関連企業の株価が急上昇した。最近、平均株価が9,500円台にまで落ち込み、目ぼしい話題のなかったこともあり、個人投資家が飛びついた格好だ。
  だが、本当に新紙幣の発行で経済効果が期待できるのだろうか。
●新紙幣の経済効果は?
  新紙幣の登場ということで思い出すのは、2000年に発行された2,000円札だ。こちらも景気浮揚効果が期待されていたが、実際は2,000円札そのものの不人気もあり、期待されたほどの効果は出なかったようだ。郵便貯金だけはいち早く全機種2,000円札対応に切り替えたものの、銀行や自販機メーカーはコスト負担を嫌って、なかなか2,000円札への積極的な対応をとらなかった。対応したメーカーも、多くはソフトウェアの設定を書き換えたにすぎず、大きな景気浮揚にはつながらなかった。
  今回は、普段から使い慣れている紙幣の刷新ということで、企業側もいやおうなしに対処せざるをえない。2,000円札や500円玉のときはソフトの書き換えですませた企業も、今回は3種類のお札が変更されるとあって、機械そのものの刷新を検討するところが増えそうだ。関連業界では大きな動きになることが予測されるが、かといって、それがただちに景気浮揚につながるかどうかは疑問である。
  セキュリティ対応のための機器の開発費はどんどん膨らんでいるのに、不況で台所事情が苦しい企業が、それだけの出費に耐えられるのかという問題がある。最近では、増大する開発費負担を嫌って自販機業界から撤退する企業も目立っている。新紙幣の発行は関連業界に恩恵をもたらすと同時に、撤退や合併など、業界再編につながることが予測される。
  また、期待されている印刷・紙業界についても、紙幣の原料は政府が海外から輸入し製造するので、実はあまり恩恵を受けない。新紙幣はサイズが大きく変わるわけではないので、財布などの売れ行きが伸びるわけでもない。スーパーやデパートでは、レジや両替機の変更にかかる負担もかさむ。新紙幣の発行に、もろ手をあげて万歳とはいえない状況がそこにはある。
●新たな混乱を引き起こす恐れも
  もう1つ気になるのは、新紙幣の登場が経済に混乱をもたらすのではないかという懸念だ。前回(1984年)は、新紙幣の誕生までに3年半をかけたのに対し、今回は2年足らずしかない。犯罪者に偽造する時間を与えないためと政府は言うが、同時に金融機関や民間企業の準備が間に合わないかもしれない懸念がある。最近、みずほ銀行などの不祥事で金融機関に対する信頼が低下しているが、新紙幣への切り替えと同時に再び混乱が生じれば、景気回復にまたしても水を差すことになる。信頼を取り戻すためにも、金融機関は新紙幣への対応を万全にすべきだろう。
<紙幣・硬貨をめぐる最近の流れ>
1957年、1958年
5000円札、1万円札の発行
1963年
1,000円札の発行
1984年
1,000円札、5,000円札、1万円札のデザインを刷新、現在に至る。
2000年
2,000円札発行、500円玉をモデルチェンジ
2002年6月末時点で発行されている紙幣は、1万円札が62億枚、5,000円札が4億枚、2,000円札は3億枚、1,000円札が32億枚弱。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.08.13
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