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エシュロン(Echelon)
〜「IT革命」の裏側で着々と進んでいる諜報機関〜
  「エシュロン(Echelon)」というコードネームを聞いたことがあるだろうか。
  米国の国家安全保障局(NSA)を中心に、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった英語圏の西側の情報機関が作っている地球規模の盗聴ネットワークのことだ。電話、ファックス、電子メールなど、ありとあらゆる通信を対象にし、地上だけでなく海底ケーブルも通信衛星も含めて盗聴し、監視するというシステムだ。
  1998年の米国映画「エネミー・オブ・アメリカ(原題:Enemy Of The State)」は、まさにこの監視システムを扱った作品だった。テロ対策のために国民のプライバシーを犠牲にしようとする「盗聴法案」に反対する議員が、法案を通過させて権限を伸ばそうとするNSA職員に暗殺された。そのシーンが録画されたビデオテープを、偶然手にした主人公の弁護士がNSAに追われるというストーリーだ。「平凡な一市民には、盗聴なんて関係ない」と考えていた主人公が、いつのまにか隠しカメラやマイクで言動を監視され、電話の通話記録や銀行やクレジットカードの取引記録を分析され、GPS(衛星を使った全地球無線測位システム。元々は軍事利用だったが、現在はカーナビゲーションなどにも利用されている)で常に居場所が把握されるという恐怖が描かれていた。劇画「ゴルゴ13」でも今春、数週間に渡ってエシュロン問題が主テーマとなった。現在連載中の作品にも、エシュロンやNSAが登場している。
  エシュロンやNSAの詳細は明らかになっていないが、フィクションではない。1998年の欧州(EU)議会で、エシュロンによる市民へのプライバシー侵害が問題視されるようになった。2001年5月、欧州議会エシュロン特別委員会は、その存在を公式に認める結論を下した。同年7月には調査報告書がまとめられ、エシュロンが一般市民や民間企業活動への違法、不当なプライバシー侵害を招いていると明記されている。2002年2月には、エシュロン特別委員会のメンバーだったイルカ・シュレイダー欧州議会議員(元ドイツ緑の党選出)が来日し、日本の超党派による国会議員の勉強会でエシュロン問題を警告した。
  エシュロンは、第2次世界大戦中に米英の諜報活動の協定として始まり、NSAは1952年、トルーマン大統領時代に創設され、この諜報システムの大半を掌握してる見られている。エシュロンは、冷戦時代には対共産圏への軍事活動として利用され、冷戦終結後、その目的は主に産業スパイ用に転化し、国際的な経済競争の中、米国企業に有利になるような役割を果たしていると考えられている。
  メインの英語圏5カ国の他にも、日本、ドイツ、韓国、トルコ、ノルウェイなどには、エシュロンに関するインフラが設置され、盗聴から得られる限定された情報の見返りを得ていると思われる。日本では、青森県にある米軍三沢基地にその施設があると推定されている。
  日本でエシュロンの存在が知られるようになったのは、1999年のこと。今、問題になっている住基ネットとセットで法制化された「盗聴法」に絡んでいる。当時、これらの法案通過の陰にエシュロンがあったのでは、と噂された。また、国際入札に絡み、エシュロンによって日本企業が大規模受注を取り逃がしたというケースもいくつかあるらしい。
  エシュロンによって、全世界のすべての通信が傍受されるというのはやや誇張された表現で、光ファイバー・ケーブルなどは困難と見られるが、されていないという保証はない。衛星で行れるものはほぼ全て、インターネットに関しても大半が傍受可能だ。2001年の9・11米国同時多発テロに絡んで、ウサマ・ビン・ラディンの通信傍受された会話がニュースで流されたが、これもエシュロンによるものと見られている。エシュロンの特徴はその盗聴技術だけではない。全世界の衛星や地上基地から傍受した膨大な通信を、特定の名称、単語、フレーズで検索し、取捨選択し分析する強力なコンピュータ・システムの存在も大きい。「エネミー・オブ・アメリカ」の中での盗聴監視技術は、ほとんどすでに現実化しているのだ。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.08.13
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