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障害者福祉に「支援費制度」導入
〜先行する介護保険に学ぶこと〜
  日本の障害者福祉が大きな転換期を迎えた。2003年度より、障害者福祉サービスを従来の措置制度から「支援費制度」へと移行することが決まっており、これに伴って全国の自治体で福祉施設の民間移譲などの動きが急ピッチで進められている。
  スタートは2000年6月に成立した「社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律」。これは、厚生労働省が掲げてきた社会福祉基礎構造改革のひとつで、中でも障害者福祉サービスの「支援費制度移行」は改革の大きな目玉である。
  従来、障害者の福祉サービスは市町村が直接運営するか、民間の社会福祉法人等に業務を委託するかたちで行われてきた。障害者がどのような事業体からどのようなサービスを受けるかについては、自治体の措置に委ねられ、障害者本人が主体的にサービス選択などにかかわることはなかったといえる。
  今回の支援費制度は、この「主体的なサービス選択」を保障したものである。障害者が在宅福祉サービスを利用したり、福祉施設に入所したいと考えた場合、都道府県があらかじめ指定した事業体の中から、自らの意志で選ぶことが可能となる。
  サービス・施設の利用料については、障害者側の申請に基づいて市町村から「支援費」というかたちで支給される。その際、所得などに応じて障害者側が費用の一部を自己負担することとなる(自己負担については、「措置制度における費用徴収基準を軸とする」という見解が厚生労働省より出されている)。
  この支援費制度から連想されるのは、高齢者福祉における「介護保険」制度である。介護保険についても、措置制度時代は不可能だった「利用者側の主体的なサービス選択」と「利用者側の申請に基づく費用の支給」が目玉となったが、考え方はほぼ同じといえる。
  介護保険制度においては、今なお新たな課題が次々と指摘されている。中でも「行政側の福祉サービス機能がどんどん民間に移行して、セーフティネットの役割を果たさなくなっている」という声は深刻だ。独居老人などの場合、自ら制度利用の申請ができないゆえにサービスの枠から漏れてしまうことが多々ある。こうした困難ケースを拾い上げるのは本来行政の仕事だが、介護支援機能を民間に移行する中で行政側の相談窓口がどんどん縮小されているという。
  障害者福祉についても、同様の問題がすでに指摘され始めている。例えば、東京都などは直営の福祉施設を原則として民間に移譲するという方向を明らかにしているが、これが行政の福祉機能そのものの削減に結びつくのではないかという懸念は大きい。民間活力に期待するといえば聞こえはいいが、結局は行政機能のリストラに終わってしまう危険も見え隠れする。支援費制度移行をきっかけに、福祉における行政の役割とは何か、もう一度見直す必要がありそうだ。
参考
障害者施策にかかる支援費制度について
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/syakai/sienhi/index.html
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2002.08.20
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