>  今週のトピックス >  No.475
紆余曲折のペイオフ全面解禁
  2003年3月末に全面解禁を控えるペイオフが、ここにきて大きく揺れている。与党の一部には、全面解禁に対し根強い延期論がある。その理由として、解禁後に万一金融機関が破たんすれば、地域経済に多大なる影響を及ぼす可能性があること。その影響を避けるため、地方自治体や企業が金融機関選別を行うが、資金移動に耐えきれず、中小の金融機関経営に深刻な影響を及ぼす可能性があるというもの。そこで、この延期論が登場したというわけである。
  そのような一連の動きに対し、小泉首相が「ペイオフ解禁は延期しない」ことを明言した。しかし、「決済性預金については特例的に保護検討する」という。しかも、7月23日に全面解禁を指示したはずの小泉首相が、柳沢金融担当相に指示したことを受けての措置であるという。
  「決済性預金」とは、企業が仕入れの支払いなどで利用している預金でいわゆる「当座預金」のことである。しかし注目すべき点は、法人だけでなく個人に対してもこの「決済性預金」は取り扱われるということである。当然、全額保護とするようである。この措置に対する政府のコメントは、「決済性預金は運用性資金でないので全額保護する」ということであり、非常に説得力に欠けている。
  今回の全額保護措置は、「日本国民に対する自己責任意識の芽生え」というペイオフ解禁による最大の効果を大きく後退させるかもしれない。今年4月、定期性預貯金にペイオフが解禁された結果、〔普通預金〕へ大規模な資金の移動が起こった。もし、この全額措置が行われれば、今度は〔普通預金〕→〔決済性預金〕へと資金移動が起こり、結局は多くの資金が全額保護という、自己責任ゼロの預貯金へ滞留することは明らかである。「決済性預金」の全額保護により、一時的な金融システムの健全性が保たれるという意見もあるが、以前、同様の理由でペイオフ解禁を延期した際、金融機関の健全性が保たれるどころか、日本に悪影響を及ぼしただけではなかっただろうか。
  その代表的な悪影響を挙げるとすれば、次の3つであろう。
(1)このような問題の先送り体質が露呈されたことによる日本国の海外からの信用力失墜、引いてはこれが外国人投資家の日本売りを招いた
(2)(1)などの要因によって、さらなる日本景気悪化を招き、これにより金融機関の不良債権はさらに増加した
(3)預金保険料の負担額増加によって、預貯金金利の低下を招いた
  原点に返って考え直さなければならないなことは、「ペイオフ解禁」と「ペイオフ延期」のどちらがグローバルスタンダードなのかという点である。
  全額保護ということは、その分、国や国民が何らかの負担を求められるということである。さらに国の負担の増加は、現状の国の財政を考えれば国債発行などにより、わたしたちの子どもにツケをまわすことになるだけであろう。
  グローバルスタンダードが必要となる日本において、今求められている金融政策は、将来にツケをまわすような小手先の対策ではなく、10年先、20年先の日本をつくる抜本的な対策ではないであろうか。
2002.09.03
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