>  今週のトピックス >  No.478
ホームヘルパー研修詐欺事件
〜いまこそ研修の仕組みの見直しを〜
  2002年8月22日、大阪府八尾市の「ベテル医療専門学院」の元学院長が、詐欺容疑で大阪府警に逮捕された。府の指定を受けていないのにもかかわらず、ホームヘルパー1級の養成研修を掲げ、少なくとも487人の受講者から受講料として計5,260万円をだまし取ったものだ。元学院長は容疑を認めているという。
  同学院は、2002年1月にもホームヘルパー2級養成研修の事業者指定を取り消されている。指定申請に虚偽があり、府からの是正指導にも従わなかったためだ。悲惨なのは受講生の側である。すでに研修を修了し、ホームヘルパーの免状を獲得したにもかかわらず、一夜にして無効になってしまったわけだ。府では補講を実施するなど救済策をとっているが、貴重な受講時間を無駄にしたことに加え、免状の無効によって就職できなくなった被害者にとってはたまったものではない。
  事業者が逮捕されたケースは今回が初めてだが、指定取り消しによってホームヘルパー資格が無効になった事例はすでに何件か発生している。2002年5月には京都市内の3つの事業者が、やはり研修内容が不適正(必要な講習時間を満たしていないなど)であるとして事業者指定を取り消された。こちらの方は、補講のメドがなかなか立たず、被害者の会が設立されて府の責任追及も視野に入れつつ、損害賠償請求を検討しているという。
  こうした事件が頻発する背景として、養成研修そのものの仕組みを問題視する声も大きい。ホームヘルパーの養成研修は、民間事業者に委ねられるケースが大半で、事業者からの申請に応じて都道府県が「指定」を授ける仕組みになっている。介護保険のスタート以降、ヘルパー需要の増加を見越して、少しでも多くの人材確保をめざすべく民間活力を利用したわけだ。
  折からの不況で、就職難から介護職の道を選ぶ人も多い。加えて、ホームヘルパーの資格は研修を修了しさえすればだれでも取得できる(その点で厳密には「資格」とは言い難い面もある)。国家試験の合格が要件となっている介護福祉士などと異なり、お金さえ払えば確実にホームヘルパーになれるという点が人気を博している一因でもある。
  検定などが要件になっていない分、本来は研修内容に厳密な審査が求められるはずだ。だが、実際は事業者が提出する書面を審査するだけで、事前の立ち入り調査などはほとんど行われていない。肝心のカリキュラムについても、厚生労働省が示したガイドラインに基づいてさえいればいいという非常にあいまいなものだ。仮にも「他人の身体や生活を預かる」職務にしては、あまりに規制が甘いと言わざるを得ない。
  事実、医療や看護といったヘルパーと連携を要する職種から「ホームヘルパーの質は目を覆うばかり」という声も上がっている。今回の事件がヘルパーの社会的信頼の低下に拍車をかけることになれば、日本の介護制度そのものが崩壊する恐れさえある。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2002.09.03
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