>  今週のトピックス >  No.481
個人向け国債について考える
  今後、個人のペイオフ対策として、また低金利時代そして株価低迷時代における個人の資産運用手段として、もっとも注目を集める可能性があるのは財務省が2003年の2月を目途に発行する「個人向け国債」であろう。
  日本の公社債および社債など債券の中で、もっとも高い信用力を持つもの(現実には、国債より高い格付けの金融債や社債は存在する)である。その国債を大量に発行するということは、ペイオフ解禁を控え少しでも安全な預け先を探している個人マネーにとってみれば、渡りに船となる可能性が高い。さらに、今回検討されている個人向け国債は、他の債券とは大きく異なり、個人が投資するのにはかなり魅力的な商品性を有する可能性がある。従来発行されている国債と主な特徴を比較しまとめると下表のようになる。
  なお、以下の個人向け国債の特徴は2002年8月現在の案であり、今後変更される可能性がある。
特徴
個人向け国債
従来の国債
1.利息形態
変動
固定
2.投資可能者
個人のみ
個人および法人
3.預け入れ期間
10年間
2.5・10・20年など
4.購入単位
1万円
5万円
5.課税
利息は非課税(注1)
20%の源泉分離課税
6.中途解約
一定期間経過後、政府が簿価で買い取り
いつでも自由
注1:財務省理財局案であり、確定ではありません。
  個人向け国債の特徴は、利息が変動する点である。通常、債券の利息は固定が一般的であり、これにより債券投資には常に金利変動リスクが生じる。具体的には、金利が上昇すれば債券価格は下落し、金利が下落すれば債券価格は上昇する。よって、現在のような超低金利時代に債券投資を行えば、金利上昇による債券価格の下落をかなり意識して投資しなければならない。
  だが、今回の個人向け国債は、変動金利という形態をとることにより、金利上昇による債券価格下落を意識する必要がない。これは、低金利時代の債券投資においては非常に魅力的といえる。また、満期は10年間と長期であるが、一定期間経過後は、政府が買い取ることもできるため流動性においてもあまり問題はない。
  さらに驚くのは、利息について非課税とする方向で検討されていることである。2002年高齢者マル優を段階的に廃止する改正が行われたばかりであるのに、これでは特別マル優の枠の拡大という結果になってしまう。
  つまり、個人向け国債は、税制面・信用力そして金利面などあらゆる面において銀行の金融債や預金、そして生命保険会社の養老保険などの脅威となる可能性が高いということだ。
  このように、政府が、民間圧迫ともなりかねない個人向け国債を推進する背景には、欧米並みに国債の個人の保有率を引き上げたいというねらいがある。確かに2002年3月末の国債発行残高468兆円のうち個人保有は約12兆円と、保有率はわずか2.6%(アメリカ13.7%、イギリス7.4%)とかなり低めである(実際は、銀行や生命保険会社が国債を大量に保有しているので、預金者および契約者が、すでに間接的に国債を十分保有していると考えることもできるのだが)。
  いずれにせよ、来年の発行開始になれば、銀行の普通預金などに滞留している大量の個人マネーが、個人向け国債へとシフトすることが十分予想される。もし、顧客から購入に関する相談を受けた場合、今後金利が上昇する局面においては従来の国債よりも有利であり、税制面も優遇されている点がメリットであることは訴求すべきである。
  反面、日本国債の信用力は、アメリカ・フランス・ドイツなど主要先進国に比べると大きく遅れをとっており、その格下げ理由が日本の国債発行残高の多さであったことを考えれば、個人向け国債の増発による国債残高の一層の増加、ひいては一段の国債格下げという悪循環に陥る可能性もあるので、いくら魅力的だからといっても、投資金額は個人の許容範囲内で行うべきであることをあわせてアドバイスしてあげたい。
2002.09.10
前のページにもどる
ページトップへ