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日本で初めてのODA(政府開発援助)を問う裁判
〜コトパンジャン・ダム問題〜
  先週9月5日、日本のODAによるダム建設で、土地や自然環境が失われたとして、インドネシア・スマトラ島の住民3,861人が、日本政府、東電設計(株)、JBIC(国際協力銀行)、JICA(国際協力事業団)を相手取り、東京地裁に提訴した。訴えは主に次の2点。
(1)
総額約190億円の損害賠償
(2)
ダム撤去・原状回復措置をインドネシア政府に勧告すること。被害者住民原告代表団16人が来日し、先週から今週にかけて全国で報告会も開いている。
  問題となっているのは、インドネシア・スマトラ島中部のほぼ赤道直下に建設されたコトパンジャン・ダム(1993年着工、1997年完成)で、日本政府が建設費など約312億円を貸し付けた。高さ58メートル、堤長258メートルの水力発電ダムの建設に伴い、124平方キロメートルが水没し、約5,000世帯、23,000人が立ち退きを余儀なくされた。
  日本政府以外の被告となった3団体は、以下の当事者として責任を問われている。東電設計は東京電力関連のコンサルタント会社で、ダム建設の調査・設計・プロジェクト監理をした。JBICはODA融資のための銀行。JICAは東電設計にダム建設の事前調査を依頼した。
  このプロジェクトは建設前から地元住民やNGOからの反対が強く、1991年に日本政府・OECF(海外経済協力基金、JBICの前身)は、インドネシア政府に対して、
(1)
住民の立ち退きは強制ではなく自由意志で行われること
(2)
補償については住民が決定過程に参加し納得できるものとすること
(3)
水没予定地域に生存する野生動物、特に希少動物のスマトラ像が良好に取り扱われ、絶滅させてはならない
  などという条件を当時としては異例な形でつけていた。
  しかし、これらの条件は全てほごにされた。ほとんどの住民が約束された補償金を受け取っていないのだ。強制移住先は、すぐに収穫可能として用意されているはずのゴム園が未整備状態で、飲料水も満足に手に入らないほどの不毛な土地だった。農業もできなくなり、住民たちは満足な食事も取れない生活を強いられ、家計を支えるために身売りされていく少女たちも少なくない。消えた補償金は政府高官の着服やリベートによるものとみられている。
  自然環境への影響も深刻だ。ダムによってできた貯水池内の樹木が腐食して水質が悪化し、魚の大量死がおきている。ボウフラの大量発生により、マラリアの大流行も懸念されている。水没地から追い出されたスマトラ象・スマトラ虎・バク・熊・猿などは餌が得られず大半が餓死した。
  一方、完成して5年以上経ったダムによる発電能力はというと、発電量は当初計画のわずか15%、フル稼働したのはたったの5日間という情けない状況だ。乾季には貯水量不足のために予定された114メガワットの発電ができず、雨季には貯水量があっても電力需要が無いためだ。日本とインドネシアの政治家、官僚、ゼネコン、コンサルタント会社の利権のために、架空の電力需要見込みによって建設されたダム建設であると、NGOや研究者から指摘されても当然のプロジェクトであろう。
  インドネシア国営電力公社(PLN)の資料によれば、東電設計などのコンサルタント企業が受け取った金額が、30億1,800万円。付け替え道路・橋梁建設費(29億8,200万円)や移住先の土地取得・補償費(19億1,800万円)よりも高い。資金の使われ方にも疑問が多い。
  長野県田中知事による「脱ダム」宣言で問われた公共事業、そして今回のようなODA問題。国の内外問わず構造は同じだ。「援助」や「公共」を隠蓑にした利権の乱用によって、人権侵害や環境破壊、そして税金の無駄使いがいつまでも続けられるのは許されない。裁判の行方が注目される。
  (注)コトパンジャン(Kotopanjang)はコタパンジャンと表記されることもある。
(フリーライター  志田 和隆)
2002.09.17
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