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第29回 国際福祉機器展を見て
〜技術革新と制度との矛盾〜
  9月10日から3日間、有明の東京国際展示場において「第29回国際福祉機器展」が開催された。国内外の福祉機器メーカーをはじめ、619社ものブースが設けられ、会場をひと巡りすれば今日の福祉産業の全容を概ね把握することができる。恐らく福祉関連のイベントとしては、国内最大規模だろう。
  会場では、「要介護者の自立支援・社会参加」にスポットを当てたブースが目立った。例えば、足腰が弱っていても一人で立ち上がり可能な椅子、外出用の歩行器や携帯用車椅子などの品揃えが、2001年度に比べてずいぶん充実していた。2001年までは、介助者側の負担軽減にスポットを当てた機器類ばかり目についた印象があり、その点で随分赴きが変わってきた。
  また、転倒・転落事故防止や褥そう(じょくそう:床ずれ)予防など、要介護者が潜在的に抱えるリスクの軽減をテーマとしたものが増えたという印象だ。例えば、要介護者の体格にフィットさせるモジュール型の車椅子で、ずり落ち→転落というリスクに対応したもの。褥そう防止マットは、使用するフォームの素材が実に多彩で、エアマットよりも効果的な分圧と快適性を実現している。
  ただ、こうした新基軸を打ち出す機器類でいつも気になるのは、利用者負担に関わるテーマである。単に「新製品だから高い」という市場価格の問題だけではない。
  例えば、「一人で立ち上がりが可能な椅子」など、実は介護保険における福祉機器貸与サービスの支給対象には、車椅子はあっても「椅子」という項目はない(支給対象項目であればレンタル料の利用者負担は一割だが、そうでない場合は全額負担となる)。椅子は一般家具であり、福祉機器ではないという解釈なのだ。
  また、会場では、普通の布団の下に敷いて手元のボタンで背起こしができる機器が展示されていたが、これも介護保険の対象外だという。同じく背起こしのできる介護用ベッドが支給対象なのに、なぜ差別されるのか。業者の話しでは「厚生労働省によれば市場で認知されていないから」なのだという。
  2003年度には介護報酬の改定が予定されているが、その際に福祉用具貸与の対象品目の見直しを求める声が上がっている。2002年5月には、全国市長会が国の社会保障審議会に対して「介護報酬に関する意見」を提出しているが、その中でも「利用者のニーズや福祉用具の進歩にあわせ、品目の見直しを行なうこと」がふれられている。だが、仮に今回「対象品目見直し」が行なわれたとして、次の見直しまでにまた3年近くの月日が費やされる懸念がある。
  国は不況脱出の切り札の一つとして、介護産業の興隆に大きな期待を抱いている。それにしては、技術革新や利用者の意識の高まりほどに制度の側が追いついていないのではないだろうか。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2002.09.17
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