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新証券税制について考える
  2003年1月より新証券税制が施行されるが、それに先駆け「特定口座制度」の準備受付が9月2日より始まった。このことは、最近の新聞やCMなどで証券会社が盛んに広告されている。新証券税制の施行により、源泉分離課税制度が廃止され、申告分離課税に一本化されることになる。同時に、申告分離課税の税率は26%から20%(所得税15%・住民税5%)に引き下げられる。
  今回の証券税制改正の主旨は株式譲渡に関する税制に関し、税制の本質に沿った制度に修正することである。源泉分離課税は売却価格の1.05%で納税が完結し、従来は売却価格の約4%以上の利益があれば、この源泉分離課税が申告分離課税より有利といわれていた。また、一説には投資家の約7〜8割がこの源泉分離課税制度を利用しているといわれている。
  しかし、先進国でこのような税制である源泉分離課税制度を行っている国はほとんどない。欠陥税制といわれる理由として、課税は本来"収入"から"支出"を差し引いた"利益"に課税されるべきものであるが、この源泉分離課税は利益が発生しているか否かにかかわらず、一律売却価格に対し1.05%が課税されているというものである。
  バブル期のように右肩上がりで株価が上昇していれば別であるが、日経平均が19年ぶりの安値を記録する日本株市場の現状を考えれば、本来課税されるべきではない投資家も相当数課税され、そして納税している可能性が高い。しかも、超低金利で1年定期にも0.03%前後の利息しかつかない時代に1.05%の税率は相当なものであり、収益がなくても課税されるとなればこれは欠陥税制といわれても仕方ない。
  その視点で再度今回の新証券税制を考えれば、改正後は源泉分離課税のように売却益が出ていない場合に、投資家が課税されることはありえない。それどころか株式の譲渡損が発生した場合は、翌年以降3年間まで繰り越せるように税制が改正された。
  また、今まで源泉分離課税と申告分離課税の有利・不利を判断する場合の目安は、利益率(売却価格に対する譲渡益の比率)が4%以上であれば、源泉分離課税の方が有利といわれていた。その計算根拠は、
(1)源泉分離課税=売却価格×1.05%
(2)申告分離課税=譲渡益×26%
  の(1)と(2)を比較して算出したものである。しかし、今回の改正で(2)の税率は20%へ、しかも売却時期が2003〜2005年の間でかつ1年超保有した上場株式であれば、軽減税率の10%が適用できる。これで、上記の(1)と(2)にあてはめて比較すれば、
売却価格×1.05%<譲渡益×10%
  となり、利益率は10.5%となる。
  つまり、購入した株式が10.5%以内の値上がりであれば、申告分離課税が有利ということになる(実際は、源泉分離課税は廃止のため、比較によって有利不利を比較しても、源泉分離課税を選択できない点に注意)。しかも、この計算は今回新たに創設された株式譲渡益からの"特別控除100万円"は考慮していなので、実際は投資家にとってかなり有利となるように改正されたことはお分かりいただけるであろう。
  新証券税制は、難解なことに加えて投資家に大きな負荷がかかることから世間では批判されているが、一方で現行の源泉分離課税が利益が出ていない多くの投資家からも税金が徴収されていたこと、また今回の申告分離課税一本化に伴い投資家にとってかなり有利な改正が数多く行われたことも忘れてはならない事実である。
  今後、新証券税制に関してアドバイスを行う際は、特にサラリーマンに対しては確定申告が苦手だからということで「特定口座の源泉分離課税」を安易に選択させるのではなく、確定申告を上手に活用して新証券税制の恩恵を最大限活用するようにアドバイスしたいものである。
2002.09.24
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