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日銀の「株式買い取り」が出したシグナルは何か
  2002年9月18日、日銀の速水総裁は大手銀行などが大量に保有している株式を直接買い取る方針を決めたことを明らかにした。その理由として、銀行が大量に保有している株式の早期売却を促し、株価下落が金融システムに与える影響を小さくするというもの。その規模は最大で8兆円に及ぶとみられる。
  最近の株式市場では、銀行や企業の持ち合い解消による売り圧迫が、心理的にも株価の頭を押さえて9,000円台での低迷を余儀なくされていた。これが月末の中間決算まで続けば、銀行の株式の含み損は膨大なものになり、決算内容の悪化はもちろん、国際的な基準である自己資本比率の低下ももたらす。そのことは金融システムの一層の不安定化を招くだけでなく、海外の日本の金融に対する不信感を招き、それがさらなる「日本株売り」を引き起こすだろう。
  このような事態だけは避けたいとの判断が、日銀の政策委員会でなされたのであるが、肝心の政府・内閣の中には「疑問が多い」との声も聞かれる。しかし、これ以上の株価下落が続けば、銀行、生損保、民間企業の時価評価の株式の含み損が巨大になり、決算が悪化するだけではなく、銀行の企業への貸し渋り、生保の予定利率のさらなる引き下げへとつながる恐れがある。
  その意味では、今回の日銀の「株式買い取り」の方針は正しいといえる。このことが、なかなか本腰の入らない政府のデフレ政策への催促となる。政府の減税策は結果的には増減税一体型であり、特に、中小企業に対する外形課税の導入、年金受給者への年金支給額の減額という考え方は、さらなる将来不安を招くことだろう。
  これは30兆円の枠を超えない国債発行の足かせによるものであり、しょせんは無理がある。現在のようなデフレスパイラルの経済環境では、財政の拡大に基づく景気対策が望まれている。カンフル剤としての大幅減税が必要だろう。
  日銀が「株式の買い取り」という極めてリスキーな方針を打ち出したのも、金融へのテコ入れを本腰でしなければ金融が危ないとの緊急避難的な色合いがある。政府はこの2月に株価対策として「株の売り規制」を打ち出して、株価を結果的につり上げ、3月決算での金融の株式の含み損を隠すことに成功した。しかし、このような小手先だけのやり方は、金融不安という重病を根本から解決するものではない。今回の「株式買い取り」は株式市場での「売り圧迫」の心理的な不安材料を緩和するものであり、株価対策の効果はある程度あるだろう。
  しかし、政府がさらなる積極的なデフレ対策の打ち出し、真水の減税金額を増やさなければ、国民の不安をなくし金融の安定、デフレスパイラルの阻止は不可能である。今、必要なのは政府の経済政策の転換だろう。
(経済評論家  石井 勝利)
2002.09.24
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