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基準地価の下落傾向が及ぼす金融への不安要因
  国土交通省がこのほど発表した7月1日時点の基準地価によれば、全国平均で前年比5.0%下がり、11年連続の下落、長期低落傾向が止まっていないことを鮮明にした。内容を見ると、住宅地は4.3%、商業地は7.2%の下落である。
  唯一上がったのは事務所需要やマンションの土地手当が活発な東京都心の一部だけであった。今回の発表で見ると、基準地価が最高値であった1991年に比べた下落幅は、住宅地で23.3%、商業地ではなんと51.6%にも達している。ここまで下がると行き過ぎであり、金融はもちろん、個人の資産の減殺を招き、将来不安を一層深刻なものにするだろう。
  確かにバブルのころは地価の高騰が狂乱状態にあったので、地価下落のための対策が重要な経済の課題ではあったが、さすがにここまで下がると明らかに「オーバーキル」の状態である。地価は上がり過ぎれば、事務所スペースの高騰を招き、国際的な経済の競争力低下を招くし、住宅の高騰で資産格差を生む。しかし、下がり過ぎれば、すでに明らかなように金融機関や企業の含み資産を減らすどころか、不良債権化の拡大が深刻になる。
  特に、銀行や生保、損保は土地本位制の中で昔から土地の保有こそ資産活用の重要な手段であったため、含み損の拡大は財務の悪化につながり、金融不安は簡単に解消するどころか、治療の長期化、慢性化を鮮明にしてしまう。たしかに、現在は土地をいかに活用するかといった「収益還元方式」に移行しているが、それでも手持ちの土地が価値を減らせば決算内容は悪化する。
  なぜこのような地価の下落が続いているのか。それは日本の経済の低迷、特に内需の不振にある。その一方で、中国などでの海外生産が鮮明になり、国内における産業の空洞化が進み、不要不急の土地の放出が行われ、土地の供給過剰が起きるためである。
  おそらくこの傾向は、日本経済が本格的に浮上するまで続くであろう。いつ下げ止まるかは予測困難と言っても過言ではない。これでは金融の早期再生は至難の業である。政府はこの辺で土地の有効活用のための買い取りや、国内生産の競争力強化のための企業減税に本格的に取り組まなければならないだろう。
  日本の経済の根幹は金融の再生である。地価の下落で金融が体力をさらに失っていくと、日本経済の長期低迷を余儀なくされる。これを避けるためにも、地価下落の発表を座して見ないで、安定政策に本腰を入れなければならない緊急の問題であることを知るべきである。
(経済評論家  石井 勝利)
2002.10.08
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