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福祉用具貸与の規制緩和
〜小泉内閣「構造改革特区」が引き金になるか〜
  9月25日、厚生労働省内の諮問機関である「介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会」の初会合が開かれ、新たに5種類の福祉機器を介護保険適用とする方針が固まった。その中のひとつに前回のトピックス(NO.486)でも指摘した「立ち上がり座いす」が含まれている。
  従来、厚生労働省が示していた「いすは家具であって、福祉用具ではない」という見解がようやく覆ったことになる。
ただし、実際に制度が改編されるのは、早くとも来年春になりそうだ。いったん方向が決まってから、制度化までに時間がかかると「使いたいのだが介護保険適用になるまで待つ」という動機が起こりやすい。高齢者の状態変化は極めて速いという点を考慮すれば、一刻も早い対応が求められる。「安易に適用項目を増やせば介護保険財政を圧迫する」という見方はあるだろう。だが、そもそも福祉機器というのは利用者の自立を促す効果がある。福祉機器制度の充実に力を入れることが、要介護度の悪化を防ぎ、結果的に介護保険財政の負担を軽くする可能性もあるはずだ。
  こうした利用者・産業界のニーズと行政側の規制とのギャップを埋めるべく、現在小泉内閣は「構造改革特区構想」を進めている。これは、特定の地域を指定して、教育・農業・運輸などさまざまな分野での規制緩和を試験的に実施するというもので、全国各地の自治体から400件以上のアイデアが出されている。
  自治体から寄せられたアイデアの中には、福祉関連のものも多い。例えば、岡山県倉敷市などでは、高齢化の実情に合わせて高齢者福祉施設の設立基準を緩和する案が出され、熊本県では「福祉コミュニティ特区構想」と称して、ホームヘルパーの業務範囲の拡大などを打ち出している。
  この熊本県の「福祉コミュニティ特区構想」の中に、実は「福祉用具範囲の拡大」という項目がある。介護保険適用範囲の拡大につながるかどうかはまだ不明だが、日本の場合、欧米諸国に比べて福祉用具の範囲が硬直化しているという批判が大きく、この点から風穴を開けていく期待は高い。
  なお、経団連でもすでに3年前、「福祉用具貸与の適用範囲は用具名ではなく用途に応じて設定することが望ましい。そうすれば新たに開発された用具が給付対象に加えやすくなる」という意見書を出している。
  現段階で、この「福祉用具」特区が実現するかは微妙だ。現に厚生労働省の腰は重く、小泉首相から「抵抗勢力の第一候補」に挙げられているという話も聞く。この際、利用者のすべてが溜飲を下げるような思いきった規制緩和を期待したい。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2002.10.15
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