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「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの農産物販売
  格安衣料品チェーン「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが農産物の販売事業に乗り出すというニュースは、意外な新分野への転進として話題になっていたが、「食の安全」意識が高まる昨今、注目される事業ともいえる。その食品事業のために設立された子会社のエフアール・フーズが10月3日、東京・新宿の廃校で具体的な事業概要を発表した。
  この食品事業は、「SKIP」というブランドが付けられ、契約農家によって「永田農法」で栽培された野菜や果物、米などを11月中旬から本格販売する。販売方法は、スーパーなどに卸しての店頭小売りではなく、通信販売とトラックやテントを使った移動販売によるもの。ユニクロの衣料品と同様に、生産から販売までを一貫して取り組むという戦略だ。通信販売では、会員制で野菜と果物を宅配で隔週届ける定期購入方法と、好きな商品を好きなときにインターネットで注文できる方法がある。具体的な品目としては、トマト、ピーマン、ナスなど国産野菜を年間に約60品目。リンゴやバナナなどの果物を約30品目扱うほか、米、牛乳、卵、ジュースなども販売する。 果物の一部には外国産が含まれるが、基本的に国産で、ユニクロのような中国産はないという。年間売り上げは16億円を目指している。
この「SKIP」ブランドでは、「おいしくて、安全で、栄養の高い農産物」とうたっているものの、いまひとつピンと来ないのは、「永田農法」というのが、一般に知られてないことが大きいだろう。有機農法の一種でも完全無農薬でもないことも、さらに分かりにくい要素となっている。
  永田農法というのは、永田照喜治氏(76歳)が50年余りの歳月をかけて確立した農法。肥えた土地よりも、むしろやせた土壌で水や肥料を極限にまで減らすことで、植物が自らの生命力を発揮しやすくなり、味が良く栄養価の高い作物が取れるというのが、その手法の根幹だ。植物は一種の飢餓状態におかれると、毛細根を必死に張り巡らせ、地中の栄養分・ミネラルを必死に吸収しようと成長する。毛細根の繁茂がピークに達した時点では、ほんの少しの肥料を与えるだけで、効率良く吸収し、糖分や栄養分がたっぷりの野菜ができあがるという。水や肥料の過剰摂取が引き起こす代謝異常で発生するアク、エグミも少なくなるそうだ。その過酷な栽培方法ゆえ、「スパルタ農法」「断食農法」とも呼ばれている。「水や肥料の少ない厳しい環境で育った米や果実の方がおいしく、その種子で栽培した作物は強い。子孫には強く生き延びてほしいという次世代への願いで、養分をすべて種子や果実に回しているようだ」という報告は、永田農法以外の農家からも少なからず聞かれており、その原理の信頼性はありそうだ。例えば、トマトは1個200〜300円と高価だが、一般農法のものと比べ、糖度は3〜5倍、カルシウムは5倍以上、ビタミンCは季節によっては数十倍になるという。グルメ漫画で有名な『美味しんぼ』でも初期のころ(単行本第7巻収録)に取り上げられて話題になったこともあり、高級食材として、料亭やレストランで利用されている。
  「SKIP」ブランドでは、一般の野菜の2〜3倍もする「永田農法」野菜を、一般のスーパーより約2割高めという設定で販売する。さらに、今後物流の簡素化で、できる限り価格は抑えていくという。気になる農薬に関しても、極力最小限にし、農薬の種類や使用量・回数をすべての契約農家と全ての品目ごとに、栽培履歴を記録し、公開するとしている。
  デフレ時代に、高品質のものが高過ぎもなく安過ぎもない適正価格で販売されるのは、望ましいことだろう。ただ懸念されるのは、品質維持がどこまでできるかだ。衣料品部門では成功を収めたユニクロの品質管理が、食品という消費者にとっても敏感なもので、どこまで通用するのか。特に、問題となるのは欠品時の対応だ。これまでの多くの表示偽装事件の要因がそれだった。品不足時に注文に応えるために、産地偽装品や薬品使用のものなどを出荷してしまったというケースだ。「SKIP」の場合、品質維持のために「売り切れごめん」「品切れごめん」とするのか。どのような対策がなされるかが注目される。
  また、有機農産物販売の場合は、広域化とは逆の地域化、小規模化で成り立っている要素が大きいが、それらの会員制の宅配事業とどう差別化するのかも興味深い。
(フリーライター  志田 和隆)
[参考] 「有機農産物」
農薬や化学肥料を使わずに、自然の力を最大限に利用した農業である有機農業によって生産された農産物を「有機農産物(オーガニック農産物)」という。「有機農業」は、土のもつ生産力や自然循環機能を維持活用した栽培法であり、環境に配慮した農業ということができる。具体的には、播種または植付け前2年以上(多年生作物にあっては、最初の収穫前3年以上)の間、堆肥等による土作りを行った圃場において、化学的に合成された肥料および農薬の使用をせずに生産された農産物と定められている。
2002.10.15
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