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ノーベル賞受賞で企業の研究者の待遇改善が進むか?
●サラリーマン受賞者の今後の処遇に注目が集まる
  今年度のノーベル賞は、日本初のダブル受賞(物理学賞と化学賞)であるとともに、日本初の「サラリーマン受賞者」の誕生ということで大きな注目を集めた。これまで、ノーベル賞の受賞者といえば高齢の大学教授が中心で、一般人には縁遠い存在だった。それが今回、民間企業の一技術者である田中耕一氏が受賞したことで、全国のサラリーマンに「いつか自分も」という夢と希望を与えた。
  田中氏が受け取る賞金の予定額は約3,000万円(税金は非課税)。勤務先である島津製作所からは報奨金1,000万円が支給される見込みだ。さらに、田中氏を所長とする研究所が設立され、同氏はこれまでの「主任」から研究に専念できる「フェロー」という立場になる。将来は役員待遇も約束されているというから、まさに同氏は研究者として夢のような境遇を手に入れたといえるだろう。
●特許報酬はわずか1万1,000円
  だが、これらの「大盤振る舞い」は、いままで同社が田中氏の貢献に十分報いてこなかったという証でもある。今回の受賞原因となった研究について田中氏に支払われたのは、特許出願時に6,000円、登録時に5,000円、そして業績表彰として別途支払われた20万円程度にすぎない。同氏の研究成果が会社にもたらした利益にくらべると、あまりにも低いという印象は免れない。
  だが、これは別に同社が研究者を冷遇しているわけではない。国内企業においては、研究者の成果は会社のものであり、いちいち報いる必要はないという意識が一般的だからだ。大手メーカーでは日々たくさんの特許申請がなされているため、そのたびに特別報酬を払っていてはきりがないという事情もある。
●研究者の正当な報酬体系の整備が急速に進む
  しかし、ここ数年、その風潮は変わりつつある。青色発光ダイオードを実用化した研究者が、その報酬として2万円しか受け取っていないのは不当だとして20億円を求める裁判を起こしたのをきっかけに、会社に「反乱」を起こすケースが増えているのだ。研究者の権利意識の高まりとともに、終身雇用制の崩壊により会社への忠誠心が希薄化し、本来の「正当な報酬」を求める人が増えたためとみられる。
  これは会社側からみれば、いきなり従業員から訴訟を提起されて、数億円の補償金を支払う可能性が出て来たということでもある。特に医薬品会社やバイオ関連企業では、特許一つが多大な利益を生み出すことがあり、そのぶん訴えられる金額も多額になりやすい。これではたまったものではないということで、最近では訴訟の危険をさけるために、研究者の待遇を手厚くするケースが増えている。その金額や内容は各社まちまちで、どこも試行錯誤しているようだ。
  そんな中で、今回のノーベル賞受賞である。企業経営者をはじめ、同社が田中氏についてどんな処遇をとるのか注目していた関係者は多いだろう。今回の受賞をきっかけに、さらに研究者の待遇整備が進むことが期待される。将来、研究者が社会的にも金銭的にも報われるようになれば、世間に「夢のある仕事」として認知され、子どもたちの理数離れにも歯止めがかかるかもしれない。
(マネーライター  本田 桂子)
2002.10.22
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