>  今週のトピックス >  No.504
過剰債務削減企業への政府の融資と波及効果
  政府の不良債権処理の加速化に関する極端な報道は、大手企業をはじめ多くの会社を危険な状態にさらすのではないかなど、さまざまな憶測を呼び、株価の急落などの副作用を引き起こしている。まさに、政府発の金融危機である。この動きに慌てたのか、ここに来て不良債権処理の手法は「整理優先から企業再生や支援」の方向に傾いてきている。
  そのあらわれが、政府の過剰債務企業への積極的な貸し付けによる民間金融機関への支援である。これにより過剰債務の企業はもちろん、RCC(整理回収機構)に債権が譲渡された企業も対象となることから、日本政策投資銀行の積極的な融資によって、民間銀行の貸し渋りも防ぐ効果がある。
  今回の政府融資の対象は「過剰債務の削減など経営再建に取り組む大企業」という条件つきである。つまり、キャッシュフローを大幅に上回る債務があっても、経営再建のシナリオがあれば、融資は受けられる。具体的には、日本政策投資銀行が緊急出融資をする制度を創設するというものだ。また、民間銀行に貸し倒れが出た場合の損失についても、その一部を日本政策投資銀行が引き受ける仕組みとなる。こうすることで、民間銀行は債務過剰によって財務内容の悪い企業に対しても大きなリスクを負うことなく継続的に資金を供給できる。この方針は月内にまとめる総合デフレ対策に盛り込まれる予定である。
  債務残高とキャッシュフローとの関係でいうならば、債務が20倍にも達する企業は建設、不動産、小売りなどに多く、それが原因で株価も急落している。このまま、株価の急落が深刻化すれば、その企業の危機だけではなく、その会社の関連の金融機関、さらには、株を保有している生保業界にまで悪影響が及ぶ。
  さらに、その動きは金融の株価急落から全体の相場低迷へと波及する。保有株式の評価損は銀行の自己資本比率の悪化を招き、公的資金の投入、国有化という悪循環につながるわけだ。今回の企業支援の方針はその悪いシナリオを回避する狙いがあるわけだが、このような政策は大企業だけではなく、資金を借りることが難しい中小企業へも配慮すべきであろう。
  今回の方針は政府が緊急避難的な措置が必要と判断したためであるが、日本経済がそこまで危機的であると認識しなければならない。
(経済評論家  石井 勝利)
2002.10.22
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