>  今週のトピックス >  No.510
不良債権処理「実質簿価」並み買い取りで処理を促進へ
  竹中金融大臣の誕生で銀行の不良債権処理の加速が鮮明になっているが、その不良債権処理の手法で注目されていた整理回収機構(RCC)の不良債権買い取り価格が、現行の時価から「実質簿価」になることを政府は明らかにした。
  これは、地価の下落などで時価が簿価に比べて大幅に減殺されているため、現行の時価での買い取りとなれば金融機関の負担が計り知れず、不良債権処理の促進に二の足を踏む金融機関が出てくることは必至。
  そこで政府は、金融機関の不良債権処理を後押しする意味で、思い切った措置を講じることにしたのである。この買い取りによれば、RCCがその債権を回収する段階で二次損失が出ることは明らか。
  これをどのような処理をするかだが、公的資金などによる処理はしないで、時間をかけて処理する方向のようである。それで時価と簿価の差が縮小されるかどうかは今後の経済の動向にかかっているが、かといって、株価が大きく下落し、銀行の自己資本比率8%維持が困難になる可能性が大きい現状では、事態を何とか打開しないわけにはいかないのである。
  生保なども現在の株価が定着すれば、株式の含み損が拡大しかねないし、企業も同じである。その意味では、構造改革のための金融再建の加速化のためには、ある程度の犠牲をRCCに預けるしかないと判断したと考えられる。
  銀行の不良債権処理を進めるために、RCCに再建劣化のしわ寄せが来た感もないではないが、どこかで環境づくりをしないことには、打開策が見えてこないことだけは確かである。
  今回の、時価から簿価買い取りへの転換で、同じ債権でも買い取り価格は現在よりも数倍程度上昇する効果が生まれることになり、銀行にとっては願ってもない環境がつくられたことになる。
  ただし、これは政府の不良債権処理に対する並々ならぬ決意を示したものである。政府はこの考え方により、引き当ての強化で資本不足に陥った銀行への公的資金の強制注入が可能な条件づくりをしたとも言えるだろう。これで不良債権の最終処理を促進することになるわけだ。
  ところで、今回の措置には、銀行に対して引き当て強化の条件がある。RCCは入札などで決まった時価で買い取っていたわけであるが、「実質簿価」に近い価格でRCCへ売却できれば、不良債権の最終処理が進むとみている。
  「実質簿価」は、帳簿に記載されている債権の元々の額(簿価)から、銀行が貸し倒れに備えて既に積み立てた引当金を差し引いた価格である。銀行は「破たん懸念先」の債権の場合、簿価の7割以上を引当金などでカバーしているが、簿価から引当金を差し引いた実質簿価は、時価の1.5倍から2倍程度と高くなる。
  この分はRCCへのしわ寄せとなる可能性が高いが、それでも敢えてこのような基準を明らかにしたのは、 政府が方針として示している「2004年度までに不良債権問題を終結させる」に他ならない。それには時価よりもはるかに高い簿価という高値での買い取りが不可欠、と判断したためと見られる。
  当面は、 時価と簿価の差額である「2次損失」については公的資金で穴埋めせず、RCCの企業再生機能を強化したうえで長い期間をかけて回収する方向と見られる。これによって、銀行の不良債権処理の加速化と景気の回復が進むかどうかは今後の成り行きを見なければならないが、政府が不良債権処理の環境づくりに一歩踏み込んだことだけは確かである。
(経済評論家  石井 勝利)
2002.10.29
前のページにもどる
ページトップへ