>  今週のトピックス >  No.514
日銀調査の「資金需要が好転の兆し」は本物か
  不良債権の解消問題の中で企業経営の危機が叫ばれているが、先ごろ日銀が発表した企業の資金需要の動向を示す「10月の主要銀行貸出動向アンケート調査」によると、多少の明るい兆しは出ているものの、問題点も浮き彫りになっている。
  また、この調査は資金需要判断D.I.すなわち、「資金需要の増加」と答えた割合から「減少」を引いた数値で、前回のマイナス20に比べて9ポイントほど改善したようである。これを企業規模別に見ると、全般にわたって資金の需要はマイナス幅が縮小して、好転の兆しがみられることがわかる。まず、大企業ではマイナス9で、前回のマイナス16から大幅に改善している。次に中堅企業ではマイナス7で、これまた前回調査のマイナス20から大幅改善。また、中小企業もマイナス17で前回のマイナス26から改善が見られる。これを大企業での業種別でみると、製造業がマイナス5となり、前回のマイナス24から大幅な改善が見られ、次いで、建設・不動産がマイナス10(同マイナス18)となるなど、いずれも改善傾向にある。
  この動向は貸し出し側の銀行にとっては、明るい兆しのように見えるが、実体経済の傾向を見ると楽観視は出来ない。前回のマイナスよりはマイナス幅が少なくなったとは言っても、企業の資金需要が相変わらず減少していることは確かだ。このことは、企業が積極的に設備投資や不動産の取得など、前向きの行動に出ていないことを示している。
  現在の日本経済の問題点は、史上最低の金利、すなわち、ゼロ金利にもかかわらず、企業の資金需要と積極的な投資が見られないことである。それどころか、バブル時に投資を行い債務を抱え込んだ企業がその返済に走ることで、財務内容の改善に動いていることだ。もちろん、企業の中には積極的な投資も見られるが、全体としては債務の返済が多いために資金の需要がプラスに転じないのである。
  一方、一般国民はどうかと言えば、低金利にもかかわらず、消費には走らず、老後の将来不安に向けてせっせと貯蓄に励んでいる。企業がお金を借りないで返済に動き、国民は貯蓄に励む。これが需要の低下を招いて「デフレ現象」、すなわち、卸売物価の低下をもたらしている。まさに、デフレスパイラルの深みにはまっているわけだ。ここで望まれるのは、そのデフレギャップをどこで埋めるかだが、これには政府の支出以外にはあるまい。最近になって、小泉内閣は「国債発行の30兆円枠にはこだわらない」との発言を始めたが、かつてのアメリカの「ブラックマンデー」をきっかけにした大恐慌は、財政の大規模な出動で深みからの脱出に成功している。いわゆる「ニューディール政策」であるが、日本の現状は、将にその教訓を生かすときではないか。
(経済評論家  石井 勝利)
2002.11.05
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