>  今週のトピックス >  No.525
東証株価の下落に望まれる明確な危機意識と効果的な方策
  東証の株価が下落傾向を強めている。最近の株価の傾向はバブル後の最安値を更新しており、さらに下値模索の状況にある。これは昔から株式を主な運用先にしていた金融機関や生保の評価損をさらに大きくすることなので、このまま放置できることではない。
  個人投資家においても、手持ちの銘柄の評価損は著しく、売買が不可能な状況で、資産の凍結化の現象が目立っている。これは個人消費の低迷にも結びつくので、経済の低迷やデフレ傾向を一層深刻な状況に追い込んでしまう。
  さらに、最近の株式市場の傾向は、売買出来高の減少である。外人投資家の売り姿勢の強まりの中で、機関投資家も動きづらく、個人投資家は株離れを鮮明にしている。
  この背景には銀行の不良債権の早期処理の方針に基づくハードランディングの副作用への懸念がある。今の政府の姿勢からすれば、ことのほか金融の不良債権処理を加速させる色合いが濃くなっている。
  銀行への公的資金の強制的投入、普通株の取得による国の金融に対する発言権の増大、さらには国有化傾向への傾斜が株式市場で悪材料視され、「銀行売り」につながっている。銀行売りは金融機関の存続に関わる問題なので、銀行以外の株式全体への悲観論の台頭をももたらしている。
  これを払拭するには思い切った「デフレ対策」とりわけ、大幅な減税などの財政出動が待たれるが、税収の大幅な落ち込みと国債発行の上限枠の設定で動きが取れない。まさに、日本経済はマクロ的には袋小路に入っていると言える。
  個々に見れば元気な企業もあるが、資本調達市場である株式市場がこのような低落傾向にあるので、連鎖的に株価の下落をもたらしているのだ。株価はわずかの「売り圧力」でも、バランスが崩れて下落傾向を強めてしまう。これがさらに弱気に傾く。まさに悪循環である。
  ただでさえ元気のない日本経済をさらに深刻にしている株価の下落を、何とかしなければならない。当局にその危機意識が薄いのは残念なことである。
  もちろん、株価は際限なく下がるわけではない。それは配当利回りが高くなることで歯止めが利いてくるからだ。ただ、配当利回りも株価下落のリスクが大きくなると意味がなくなる。
  大切なのは、株式市場が世界同時株安の中にあるとは言っても、日本独自の経済再建の明確な青写真が示されさえすれば、深刻な事態は回避されるということだ。不良債権処理と企業つぶしばかりの印象が強いこの現状は、決して好ましい状況ではない。
  アメリカの株価下落は最近のことだが、日本の下落はバブル崩壊以降長く続いている。その間の資産の減殺は巨大なものであり、この辺で歯止めをかける明確な意志が政治の側から示されることが望まれる。
(経済評論家  石井 勝利)
2002.11.26
前のページにもどる
ページトップへ