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中堅・中小企業向け貸し出しの落ち込みで問われる銀行の役割
  日本銀行がこのほど発表した国内銀行の「貸出先別貸出金統計」によれば、9月末時点での中小企業向け貸出残高は前年同期比10.3%減の199兆2,221億円となり、1979年6月に統計を開始して以来、最大の落ち込みという憂慮すべき事態になってしまった。
  これは銀行の不良債権処理のハードランディングに関する政府の方針が明らかになる前であり、その後の成り行きを考えれば、公的資金注入を避けるあまり、さらなる貸し渋り、貸し剥がしが鮮明になったことが容易に予想できるので、現時点ではさらに事態は悪化していることが容易に想像できる。これは経済の低迷の中で注意すべき点である。
  今回の統計に見られる貸し出し減少の要因を見ると、デフレ経済下の需要不足から、主に製造業を中心に設備投資の落ち込みが反映し、そのための資金需要が冷え込んだと見られる。これは借り入れ側の需要減が大きく響いたものだが、貸し渋りが大きなファクターになったものと見られている。
  この結果、国内銀行全体の総貸し出しは428兆7,668億円となり、前年同期比6.0%の減である。企業別での落ち込みは中堅企業への貸し出しがもっとも減少し、貸出残高が同15.1%減の20兆4,450億円となり、中小企業をしのぐものとなっている。
  長期の景気低迷で、中小企業だけでなく、中堅企業にも資金需要の減少が起きており、経営環境の厳しさが改めて認識されている。大企業向けは若干減少幅が少ないものの金額的には逆に多く、95兆4,045億円になった。率にすれば、同3.6%減である。
  業種別の増減で特筆すべきことは地方自治体向け残高が全体の方向とは逆であり、9兆5,761億円と同12.7%も増えたことである。これは2001年6月末から6四半期連続で伸びたことになる。
  地方自治体の資金需要は、税収の減収から来たと見られるが、銀行の姿勢が貸し倒れ、不良債権化のリスクの少ないところに向かったのは否めない結果である。このような傾向が続けば、銀行は一般企業への資金供給という産業の大動脈の役割を回避していることになり、その姿勢が問われる。
  これは同時に日本経済における銀行の存在意義の問題にもなり、注目しなければならない。現在は銀行への公的資金の注入や国有化の問題が言われているが、金融機関が良質な民間企業の育成に取り組み、貸出先の開拓、経済の活性化に真剣に取り組まなければ、その役割がますます問われることになろう。そうなると、公的資金を使ってまで金融機関を助ける意味があるのかというような過激な論議にまで発展しかねず、今回の調査結果は銀行に対して厳しいシグナルを発していると考えなければならないだろう。
(経済評論家  石井 勝利)
2002.11.26
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