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低迷する「機械受注統計」数字はミクロの目で見る必要も
  日本経済の温度差を示す「設備投資」の代表的な指標である「機械受注統計」が相変わらず低調である。内閣府がこのほど発表した10月の機械受注統計によれば、設備投資の先行指標である船舶・電力を除く民需は前月比4.1%減と深刻な状況となった。
  この内訳を見てみよう。
  1. 通信や金融などの非製造業が大幅に減少し、2カ月ぶりのマイナスであった。
  2. これは前年同月比では17カ月ぶりにプラスに転じたが、受注額の水準は低く、一時的なものとの判断が出来るので、内閣府は「横ばい圏内で方向感が見えない」とみている。
  3. 最近の動きでは、船舶・電力を除く民需は実際の設備投資の動きに6カ月ほど先行する。8月の前月比13.6%減の後、9月は12.7%増に持ち直したが、10月は再び減少した。
  4. ただし、昨年10月が米同時テロの直後で水準が低かったため、前年同月比ではプラスになった。これは一時的な数字のマジックと心得なければならない。
  5. 発注を業種別にみると、通信業は前月比28.5%の大幅な減少。これは経営統合に伴うシステム投資の一巡などで、金融・保険業も13.7%減であり、金融システムの問題が続く限りはこの傾向は続くであろう。
  6. 非製造業全体では12.3%減になり、機械受注は弱含み。これはサービス業などが店舗の統廃合に力を入れていることも関係していると考えられる。
  7. 製造業は電気機械や自動車が増加し、全体では10.5%増。2カ月連続の二ケタ増となったが、なかでも自動車は売れ行き好調であり、増加に貢献している。
  以上の内容から考えると、減少の要因が金融再生のためのリストラ、店舗などの経営統合にあり、今後ともこの傾向は続いて機械受注低迷のファクターになり続けるものと考えられる。さらに、半導体などのIT関連の投資は市況の弱含みと競争の激化で関連企業の業績が落ち込み、加えて韓国などの攻勢により同じ土俵では戦えない状況で、安易な設備投資には踏み切れない事情がある。このため、半導体製造の機械受注は当面は今後も活気が見られそうにない。
  ただ、自動車関連は、元々品質の良さで競争力があるので売れ行きが伸び、その反映としての機械受注は今後も増え続けていくと思われる。
  このように見ると、好調な自動車と低迷の金融・半導体が対峙(たいじ)する形になっており、カギはIT関連の新たな需要がどこで増えてくるかにあるのではないか。
  一部には新世代の携帯やパソコン・ゲーム機器での需要の好転が見られるので、ここからの突破口がどうなるかが期待されるところである。
  ただ、機械受注の動向は日本経済の温度であり、画期的な希望のもてる景気対策がでる可能性がなければ経営者マインドは暖まらず、慎重な経営姿勢が継続するだろう。たとえ、積極的な設備投資意欲が一部にはあっても、金融機関の貸し渋りの現状では、この状況は相変わらず続いていくのではないだろうか。
  金融のハードランディングに意欲を燃やす政府の担当大臣は民間の景気対策にはあまり気が向いていないようなので、当面の受注の急激な好転は期待できないであろう。ただ、全面曇りの状況ではなく、まだら模様の面があるので、この統計はマクロの目ではなく、ミクロの目で見ていくことも大切である。
(経済評論家  石井 勝利)
2002.12.17
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