>  今週のトピックス >  No.541
医療保険制度改革の厚生労働省試案
〜2案併記の背景にあるもの〜
  12月17日、厚生労働省から「医療保険制度の体系のあり方」(試案)が提示された。試案のポイントは二つ。規模のバラバラな保険運営団体を「都道府県単位を軸に再編する」こと、それに「75歳以上の高齢者医療について別建ての制度を設ける」こと。ともに、医療保険の財政基盤をいかに安定させるかが大きなテーマとなっている。
  注目すべきなのは、後者の高齢者医療制度に関して、二つの新制度創設案が併記されたことだ。一つは「助け合い方式」と呼ばれ、若年加入者の多い医療保険(企業の健康保険組合など)が、高齢加入者の多い医療保険(国民健康保険)を財政支援する仕組み。もう一つは「独立保険方式」と呼ばれ、75歳以上を対象とした新たな医療保険を設けるというもの。公費やほかの保険からの支援に加えて、高齢者本人から新たに保険料を徴収し、それを保険財政に充てるという仕組みである。
  現行の高齢者医療は、老人保健制度という別会計を設け、ここに各医療保険が拠出を行っている。このまま急速な高齢化が進めば、機械的な拠出は医療保険の財政を悪化させ、若年層への負担増がますます厳しくなる。今回の2案は、これらの懸案を何とか乗り切るために出された苦肉の策と言っていい。
  2案を併記するという異例のやり方は、どちらの案を採用するかによって、各種団体・医療保険の利害関係が真っ向から対立するという懸念が背景にある。例えば、「助け合い方式」を採用した場合、財政支援する側の企業健保などは負担が増すため、経済界を中心に反発が予想される。逆に「独立保険方式」を採用すると、75歳以上の加入者がごっそり抜けてしまう国保は保険料収入が悪化するため、市町村を中心に反対論が根強い。
  だが、重要なのは、いまの保険財政や保険料負担がどうなるかだけではない。高齢化率がさらに上昇していく中で、10年、20年先はどうなのかという未来像を頭に描くことが求められる。予想されるのは、ごく近い将来、「高齢者医療を社会保険でまかなうことは不可能」という議論が出てくる可能性があることだ。
  公費負担(税金投入)の比率を劇的に引き上げるというビジョンを描いた時、高齢者医療を完全に独立させるという流れは止まらず、そうなると「独立保険方式」を採用しておいた方が汎用性がきく。税金投入は政治的なかじ取りがしやすいため、財務省をけん制したい与党が「独立保険方式」を支持しているのは何となく納得できる話ではある。 高齢者医療をどうするかは、全国民にとって非常に切実なテーマである。それが、将来的に財務省と与党の綱引きに利用されてしまうかもしれない状況では、暗たんたる気持ちにならざるをえない。
  問題なのは、100%税金投入の時代が来た時のビジョンを、当事者である厚生労働省が描き切れていないことだ。省内ではタブー視される議論なのかもしれないが、高齢者医療を政争の道具にしないためにも、財務省や与党とは別の立場から厚生労働省の存在意義を見せてほしいと考える。
(医療・福祉ジャーナリスト  田中 元)
2002.12.24
前のページにもどる
ページトップへ