この数カ月、違法農薬、残留農薬が大きな問題となり、野菜についての安全性が問われることとなったが、現代農業に関して、もう一つ大きな問題は、野菜の栄養価の低下だ。化学肥料や殺虫剤、除草剤を用いた現代の生産方法とそれ以前の化学薬品を多用しなかった農法での野菜を比較すると、歴然とした違いが見られる。
旧科学技術庁(新:文部科学省に統合)が作成した「日本食品標準成分表」の初版(1950年)と四訂版(1982年)、五訂版(2000年)で比べてみよう。この食品標準成分表は、食品の栄養価についての指標となるもので、学校給食や一般家庭での食事の献立作成における栄養素の含量やカロリー計算などで、教育・研究機関や行政でも広く利用されている。
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ホウレンソウ |
ニンジン |
キャベツ |
1950年 |
150mg |
10mg |
80mg |
1982年 |
65mg |
6mg |
44mg |
2000年 |
35mg |
4mg |
41mg |
ホウレンソウは、1950年には150mgあったビタミンCが、1982年では65mgと半分以下に、2000年には35mgと4分の1以下に低下している。ニンジン、キャベツの場合も半減している。ビタミンAは、ホウレンソウで4分の1以下に、ニンジンは3分の1以下に、キャベツは5分の1ほどに減少している。他の野菜についても、この50年の間にビタミン類をはじめほとんどすべての栄養分は激減している。
また、化学肥料や農薬の影響だけでなく、季節に関係なく1年を通して生産できるハウス栽培によるものと旬の野菜とでも、その栄養価は大きく違う。冬が旬のホウレンソウは、冬採りの場合、ビタミンCは60mgあるが、夏採りの場合20mgと3分の1にすぎない。夏場のホウレンソウは、冬場の半分ほどの期間で育つが、栽培期間が短い分、吸収される栄養分が少なくなるのではないかとみられている。ハウス栽培はお金とエネルギーを多く消費するものの栄養価は比例しないどころか、低下してしまう。
春 |
タマネギ、タケノコ |
夏 |
キュウリ、トマト |
秋 |
生シイタケ、ジャガイモ |
冬 |
ホウレンソウ、ハクサイ |
見栄えの良いものを短期間で多く、しかも季節に関係なく栽培できるようになった現代の農業だが、野菜そのものの栄養価と安全性を失うことになってしまった。
野菜の栄養価の評価は、日照、気温、生育期間などの条件によって大きく変わってしまうが、いろいろな調査によって、有機栽培の野菜と普通栽培のものを比較すると、上記の50年前と現在の食品標準成分表のデータ比較と同様に大きな差で、有機野菜が優っていることが指摘されている。概して、有機野菜は一般のものより高価であるが、普通栽培の野菜で同じ栄養価を取ろうとすると、数倍摂取する必要がある。安全性含めて考えると、どちらが安いか高いかの答えは消費者しだいとなるだろう。嗜好品や観賞用の植物ならともかく、日々の食生活には注意が必要だ。
(フリーライター 志田 和隆)
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