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企業再生のために銀行の企業審査能力の改善が必要
  銀行の不良債権処理の問題は、いまや日本経済再建の最大の問題と言っても間違いはない。不良債権が少なくなれば銀行の体力のみならず、企業の経営状態も好転している証し(あかし)だからである。今の貸し倒れなどはバブル後に起きたものが多く、最近の景気低迷が極めて高い割合で悪影響を及ぼしている。
  内閣府は12月24日、「銀行の貸出先企業に対する審査能力が欠如している可能性がある」という内容のレポートを発表したが、銀行のあり方に対して大切な警鐘と言わなければならない。
  それによると、過去13年間に倒産に至った企業のうち、1717社について5年間の財務データを使用して検証した結果、銀行が企業に対し倒産直前まで追い貸しを続けてきた実態が浮き彫りになったのである。
  企業の倒産リスクをいかに回避するかは銀行経営のかなめのはずである。にもかかわらず、倒産直前まで貸し続けていたということは「審査能力」の問題を超えて、銀行としてのモラルが問われるものである。かつて、バブルの時には銀行が貸し出し競争に走り、地価高騰の終えんを予測するどころか、住宅、ビル、ゴルフ会員権、絵画などの値上がりの主役を演じたのだ。最近の企業に積もる巨額債務も当事者能力の欠けた馴れ合い融資の実体を浮き彫りにした。
  不動産でも、再建不可能な企業にでも「貸し出しを止めれば巨額債務が表面化」する危惧があるにもかかわらず、それを隠し、その場しのぎの延命策を取ってきたわけである。とくに、最近の貸し付けは「不動産担保主義」から経営能力やバランスシートに基づくものに変わっているが、その判断は不動産の評価に比べて格段に厳しい。このような与信の能力がどこまでできていたかは極めて疑問なところである。
  内閣府のレポートではこうした貸し付けの実体や行動の背景には、銀行の審査能力が欠けているか、倒産を予見しつつも損失実現の先送りを意図していることがあると指摘している。銀行の経営や不良債権の増加など二の次であるというような考え方が底辺にあったとすれば、それは「犯罪」に等しいと言わなければならない。公的資金は国民の税金であり、結果的にこのお金が「死に金」になるような貸し付けや企業とのつきあいはやめにしてもらいたい。
  正しい貸し付けが経済の活性化につながる。活躍したい会社にお金が回るからである。銀行はこの内閣府の発表に耳を傾けて欲しいものである。
(経済評論家  石井 勝利)
2003.01.07
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